2017年 新年のご挨拶

新年 あけましておめでとうございます。新しい年の始まりに、本年が、市民の皆様にとって、心穏やかに過ごせる、幸せな一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

さて、そうは申しましても、2017年の始まりの空気には、例年にない落ち着きのなさを感じます。これは一重に、アメリカのトランプ政権の誕生が、世界と日本にどのような影響を与えるかが予測できないことが影響していると思われます。確かに、トランプ政権の打ち出す政策は、日本の経済に大きな影響を与えるでしょう。それに対し、身構えようとする心理は理解できます。しかしながら、このような、ある意味相手の出方待ちの時にこそ、私たちは自分を見つめなおし、自分が、この国が本当に何をしたいのか、という点についてしっかりとした認識を持っておくことが必要です。それがあってこそ、いざという時、即時の対応ができるのです。

ここでは、本当は何がしたいのか、という問いを、国のエネルギー政策、大阪府の万博招致活動、吹田市の今後について、そして私自身のこれからについてと、4つの点について発してみたいと思います。

(国のエネルギー・地球温暖化政策について)
2016年11月にモロッコのマラケシュで行われた、国連気候変動枠組条約第22回締結国会議(COP22マラケシュ会議)においては、トランプ氏の米大統領選挙における勝利にもかかわらず、「パリ協定は、法的にも、事実としても、私たちの精神においても、逆戻りすることはない(オランド仏大統領)」という言葉に代表されるように、中国、インドなど、すべての関係国が、引き続きパリ協定に取り組む姿勢を示しています。アメリカ国内でも、ヒューレット・パッカード、スターバックスを含む365もの企業が、トランプ氏宛にパリ協定への参加継続を求める書簡を提出していますし、パリ協定に向けた協議を一層加速しようとする動きが、高まっているようです。

それに加えて、マラケシュでは、再生可能エネルギーに関する率先した動きが数多く発表されました。特に、気候変動の影響に脆弱な約50の途上国からなる「気候脆弱国連合(CVF)」が2030~2050年に再エネ100%をめざすことを宣言したことは注目を集めました。また、日本がまだ検討段階にある2050年までの長期戦略を、ドイツ、米国、メキシコ、カナダがいち早く国連に提出し、国際社会をリードしました。

日本では現在環境省と経済産業省がそれぞれ別々に審議会を設け、長期戦略(長期低排出発展戦略)の検討を行っており、本年度末までに取りまとめをしようとしています。その、審議会、委員会の中では、まだエネルギー多消費産業の代表が、エネルギー転換について後ろ向きの発言をされていると聞きますが、それでは、日本は世界の潮流に対し一国で背を向け、地球温暖化対策に後ろ向きな国として突出することになります。(国際NGOによる気候変動対策ランキング評価では、排出量の多い58ヵ国中、57番目とされ、ほぼ最下位レベルになっています)これが、本当に私たち日本国民、そして安倍首相がやりたいことなのでしょうか?

欧米では、再生エネルギー導入を進めるため、電力システム改革がおこなわれましたが、日本では、同様の意図で始められた日本国内の電力システム改革を後戻りさせてまでも、原子力と石炭火力発電を制度的に強化し、再生可能エネルギーを封じ込めようとしてきました。しかしながら、いくら日本政府でも、今回のこの長期戦略の提出にあたって、パリ協定の趣旨から大きく逸脱する結論を書いて提出することはできないでしょう。もしこのタイミングでそれをするというなら、政権の交代をしていただくよりほかはなくなります。

(大阪府の万博招致活動について)
大阪府が「人類の健康・長寿への挑戦」というテーマを定め、2025年国際博覧会(万博)の大阪開催に向け、本格的な招致活動を始めています。この「健康・長寿」というテーマが、万博のテーマとしては少し狭すぎるのではないかという声があります。昨年12月からは経済産業省が有識者会合を開き、テーマも含めてさまざまな検討をするとのことですが、1970年の大阪万博について学んだ身としては、現代の日本・大阪が、1970年と比較して激しく劣化したと感じるような万博にはしてもらいたくないと思います。

大阪万博の公式ガイドにかかれた、今上天皇(当時皇太子殿下)のお言葉に、「この日本万国博覧会を機縁に、世界の人々に相互の理解がいよいよ深まり、平和で豊かな発展がもたらされることを心から祈る」とあります。また、佐藤栄作内閣総理大臣の言葉に、「万国博覧会は―--人類の達成した進歩の跡を記録してまいりました、それは、とくに科学技術の分野にいちじるしく、歴年の万国博は、人知の限界を刻んだ記念碑ということができる」とあります。また、日本万国博覧会協会会長石坂泰三氏の言葉によると、「万国博は、それぞれの時代において人類が到達し得た文化の粋を一堂に集めてこれを展示するとともに、それによって将来の人類進歩の方向を示そうとするもの」であるとのことです。

すなわち、万博とは、ここまで高い品性と覚悟の下に招致し、実現していかなくてはならないものであり、決して経済振興のためなどという、短期的な目的で行ってはならないものなのです。

これまでの大阪府の検討は、非常に高いレベルまで人類の文化・歴史を俯瞰して行われたものでしょうか?これからの国の検討でブラッシュアップされることを期待いたしますが、私としては次に述べる観点をぜひ忘れないでいただきたいと思います。すなわち、万博は「人類の歴史を俯瞰」するものでなければいけないことです。人類の存続の可否が問われている気候変動対策とエネルギー転換の時代、その時代において、私たちは「過去」から何を引き継ぎ、「現在」にどのような幸福を見出し、「未来」にどのような人間社会、地球のありかたを構想するのか、このテーマを根底におき、科学技術を最大限活用し、日本人のすべての叡智を結集して、単なる「展示」ではなく「祭り」として日本人全員参加のイベントにすること、これが二回目の大阪万博に求められていることです。また、大阪という都市からの視点ではなく、2000年の歴史をもつ関西圏としての視点、里山、里海を持つ瀬戸内海からの視点、地球温暖化で沈みゆく、太平洋の島々の一つであるという視点、視点は無限に拡大することが可能で、だからこそ、現在に生きるすべてのクリエイター、そして企業に、自由な発想と活躍の場を与えることができるのです。

今の日本人、とくに経済界にこれができるのか、という疑問はあります。エネルギー転換に後ろ向きな企業がある中、2025年を目指しても、いまだ新しい再生可能エネルギー社会を描くことを拒む勢力は存在するでしょう。しかし、そこを乗り越える努力を経済産業省はするのか、しないのか。ここで本当に「経済産業省の本当にしたいこと」が見えてくるでしょう。大阪万博はしても、しなくてもいい。したくないならパリにお願いすればよい。したくないのに手を上げるような恥ずかしいことはしなくていい。経済産業省は、そして日本は、世界をリードしたいのですか?それとも後ろからついていきたいのですか?

(吹田市のこれからについて)
最近、久しぶりに吹田市の後藤市長の話を聞いたのですが、職員出身の市長らしく、市が過去から行ってきた事業を真摯に継続している様子は見受けられました。また、厳しい財政政策をうちだした井上市長のもとで採用できなかった職員を採用したり、小中学校のトイレを洋式化したりなど、誰が見てもしなくてはならない新たな施策もしっかりと行っておられるようです。しかしながら、私が残念な思いをしたことが二点ありました。一つは、吹田市が南千里駅南部に市庁舎用の土地を購入したことです。吹田市が本庁舎を現在の場所から、南千里に移すわけではなく、千里地域で行わなくてはならない事業のための庁舎であるとのことですが、私が4年前、あれほど村野藤吾の作品である南千里の市民センタービル、地区センタービルを何かに使うことがあるかもしれないから残すべきだと言ったのに、それを壊して土地をマンション業者に売却し、それで今、庁舎用の新たな土地を購入するという姿を見るにつけ、吹田市の行政としての見識のなさを感じました。また、市長が述べられなかったのが、北千里駅周辺の開発をどうするかという問題です。国立循環器病研究センターのない北千里駅周辺開発を構想することは、本当に難しいでしょう。実は、今でも私は国立循環器病研究センターは北千里にあるべきだと強く思っており、岸辺での建設については、適切でない、さらには、循環器病研究センターに隣接して吹田市民病院を建てることも適切でないと考えています。岸辺の手続きが進むこと、北千里の現地の売却手続きが進むことを本当に苦々しく感じています。しかしながら、このテーマで一度選挙をして、多くの市民の皆さんの賛同を得られなかった身としては、打つ手がない状態です。吹田市民の皆さんにもう一度だけお聞きいたします。国立循環器病研究センターを本当に北千里から、岸辺に動かしたいと思うのですか?(ご意見がある方は、katsuya@bigfoot.com迄ご連絡ください。)

(私自身の今後について)
さまざまな意見を社会に発信し、あるいは議員として具体的な活動をしてまいりました。社会に役に立ったものも、役に立たなかったものもありました。私は、私のように、若くして企業社会から離れ、市民活動と政治・研究の場に身を置いたものが、人生の後半をどのように過ごすのか、それが問われる年頃に入ったと思います。

もう一度政治の場に身を置きたいという強い思いはありますが、実際上、若い政治家の芽が出てくるのを見ますと、同じような活動はできないなという寂しい思いが致します。しかしながら、いつ何時、自分に機会が回ってくるかはわかりませんので、情報収集を怠らず、自分に今できることをやりきるという信念をもって、今は本の著作など、研究、文筆活動をしております。市民の皆様の眼には直接触れない場所におりますが、ぜひ、私の本などを読んで、問題意識を共有していただきたいと思います。

それでは、本年がみなさまにとって素晴らしい一年となりますことを心からお祈りしつつ筆をおきます。

2017年 元旦
                       山口総合政策研究所 所長 
                       山口 克也