筑地市場の豊洲移転について (平成30年10月挨拶)

皆さん、どんどん寒くなり、風邪をひかれる方も多い季節になりました。ぜひ暖かくしてお過ごしください。私は、国連協会関西本部の一員として先日台湾の国慶節に招待され、台湾建国107周年を一緒にお祝いしてまいりました。素晴らしいパーティーにも参加したので、いくつかの写真をお見せします。


 

さて、私はこの原稿を10月末に書いていますが、これからアメリカの中間選挙が行われるタイミングであり、各国間の経済戦争も、あるいはサウジアラビア、トルコ、イランの情勢も、イギリスのEU離脱にしても、今後の見通しが読めない状況です。私は、今は、朝鮮半島に平和がもたらされることだけを祈りつつ、国内問題に集中していようと思います。なにせ、来年に統一地方選挙があり、また参院選も、もしかたら同日選もあり、私としても自分を活かす方法を模索しなくてはならない時ですから。私が、何の問題に集中して取り組むことにするかは、そう遠くない機会にお話しできると思います。

今日は、大阪の問題ではないのですが、築地の豊洲移転の問題について考えたことをお伝えしようと思います。私は、吹田市が守りたくて、万博公園保存問題に取り組んだり、南千里の村野藤吾の作品を守ろうとしたり、国循や吹田市民病院のこれまでの立地を守りたくて市長選まで闘った人間ですから、80年以上の歴史があり、江戸から続いている日本の食文化の要としての筑地を守ることには、そもそも惹かれる所があったのです。

私は、この移転問題に関して、小池知事の移転延期の決定、そして問題が多かった「筑地は守る、豊洲を活かす」という判断、そしてその後もつづいた移転賛成派、反対派のバトルを注視していました。この問題は直接自分の仕事でもありませんし、私は報道による情報しかもっていませんでしたので、対外的に意見を言うことはありませんでした。しかしながら、移転が実行され、築地市場がこのままでは完全消滅する方向に進んでいる今、一言だけ自分の考えたことを皆様にお伝えしようと思ったのです。それは、非常に本質的なことです。

第一に、築地市場を不潔、豊洲市場は新しくてきれい、と断定的に言うことはできません。築地市場は、吹きっさらしで、外気が入り、鳥までが入り込んでくる、あるいは大きな排水溝があり、そこに沢山の排水が流れ込み、ネズミなどが繁殖している、だから筑地は不潔だという考え方は、魚を扱う時において、何が清潔で、なにが不潔かを誤って認識しています。清潔、不潔の定義は難しいのですが、仮に細菌数、有機物の量としておきましょう。実は魚介類を取り扱い、それも多くを生きたまま取り扱い、それを解体し小分けするという処理をする際に、不潔なのは何よりも魚介類周辺であり、外気でも海水でもないのです。必然的に生じる魚の血、内臓の混じった体液、生物体の一部、そういう汚れ、細菌の塊そのものを、出来るだけ早く商品から遠ざけ、外部に排出する、そして真水、海水交互に周辺に流して細菌を殺す、この作業が、水産物市場の清潔さを保つために最も重要な部分であり、変化しない荷物、あるいは青果物の荷捌きと、清潔、不潔の場所が正反対なのです。

ですから、生きた、あるいは生の魚介類を取り扱う市場の建物は、大量の水が使えるとともに、それを流す排水溝があり、そして換気を十分に行うことができることが、設計上なによりも求められるのです。それが出来ない、密閉型の豊洲市場は、コンセプト的に生の魚を扱うことのできない場所なのです。すでに、臭気がすごいという噂が聞こえてきます。もう少しすると、生ものを扱う市場として不適切だ、という声がより強くなるでしょう。

第二は、豊洲市場を作るためにすでに何千億もかけたのだから使わなければ、という声は、判断基準を間違っているということです。すでに使ってしまったお金は、それが経済的価値があるものに姿を変えていない限り、消えてしまっているものです。いま、豊洲市場がどれだけの価値を生み出すものであるかが大事で、過去に使ったお金の額は関係ないのです。あるいは筑地市場がどれだけの価値を生み出すものであったかが比較対象として大事です。

豊洲市場の混雑が2.3日で解消したから、豊洲市場はうまくいっている、は嘘です。大切な商品をうまく機能していない豊洲市場に持ち込むのを避け、業者が商品を他の市場に振り替えたという噂が聞こえてきます。豊洲の取引量が大幅に予想よりも減少しているそうです。東京都は、現実を早く認識し、それを公表するべきです。そして、予想よりも大きな損失が出るようなら、それを前提に対応をするべきです。築地にもどれないように、築地市場の建物解体を急ぐようなことを決してしてはなりません。都民のため、市場運営を円滑に行うことを最優先しなくてはならない東京都が、市場の運営を犠牲にして豊洲市場を守ろうとするのは本末転倒です。場合によって、現状の築地に緊急避難することが必要になるかもしれません。

第三は、東京都が、築地に象徴されてきた、日本の水産物文化をどれだけに大切にしてきたのか、ということです。築地がどれだけ素晴らしいものだったかについては、まだ見てらっしゃらない方は、是非映画『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』をご覧ください。YouTubeでもさわりは見ることができます。

世界中で、素晴らしい都市、ビルディングは建設されていきます。都市計画にしろ、ビルの規模にしろ、日本より素晴らしい場所はこれからいくらでも生まれてくるでしょう。日本が世界の中で、恵まれている大事なポイントは、日本が海に囲まれた国であること、多くのバラエティーに富んだ水産物があること、そしてそれを生で食べる文化があり、それを可能にするのが、水産物の特殊な物流であり、その象徴が筑地であったということに議論の余地はないと思います。築地の跡地は数千億円の価値があるかもしれませんが、築地というブランドが東京に存在し続けることのメリットはそれよりもはるかに大きく、世界から人を呼び続けるということが東京都にわからないのでしょうか。目先の数千億円を大切にして、どれだけの価値を失おうとしているのでしょう。

私は、小池都知事、そして安倍総理にいいたい。豊洲市場が築地市場の代わりになるか、自分の目で遅くとも1・2か月で見届けて下さい。そして、豊洲がそうなれないことが分かったら、理性的に、早急に市場を築地に戻してください。オリンピックの駐車場なんて、仮設で複数階のものを作ったら、もっと狭い土地でもできるでしょう。仲卸業者、築地で働いていた人が倒れてしまわないうちに、早く判断をしてください。食文化を本当に担っているのは彼らであり、彼らの仕事こそが食文化そのものであり、世界の宝であることを、思い出してください。あなた方は日本文化を守ると言ってきた保守の政治家でしょうと。