日本国内での取り組み

 この項目については、次回お話しいたしますが、最低限のまとめだけを、気候ネットワークの資料や名古屋大学の高村ゆかり先生の資料をもとに、に若干の補足と感想を加えてお話しし、そこから先は参加者の皆様のご意見を伺う形にしたいと思います。

 まず、地球温暖化対策に後ろ向きな経済産業省の作成した「エネルギー基本計画」「長期エネルギー需給見通し」が、排出量削減において先進国で最低レべル2013年比26減の日本の2030年目標を生んでしまいましたが、いずれにしろ今後、2020年目標、2030年目標達成のための政府の行動計画を作る必要があります。この際、基本計画の原子力の20-22%は、安全基準を満たすことや地元の同意が前提となり、「野心的」というしかなく、想定通り稼働しない場合、化石燃料を炊き増すしかないという事態にならない方策(省エネ・再エネ推進策)をあらかじめとっておく必要があります。また、相当数の石炭火力の建設計画があり、2030年の電源構成の26%を超えることが懸念されます。

 また、2015年12月に地球温暖化対策推進本部は、「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の 取り組み方針について」を決定し、来春までに「地球温暖化対策計画」を策定することなどを取り決め、それを受けて開催された、中央環境審議会地球環境部会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会合同会議では、「地球温暖化対策計画骨子案」が、資源エネルギー庁からは「エネルギー革新戦略」の検討状況が説明さましれたが、骨子案は、パリ協定を踏まえるとしつつも、2030年26%削減目標(2013年比)の約束草案を決定した際の内容を踏襲し、その着実な実行を前提としているものとされています。

 また、資源エネルギー庁における「エネルギー革新戦略」の検討では、既に省エネ法やエネルギー供給構造高度化法などによる制度検討が先立って進んでおり、審議会議論の結果をまたずに、エネルギー政策は独自に進めていくような動きが見られます。

また、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、「エネルギー革新戦略」についての検討状況が議題となり、省エネ、再エネの拡大、新たなエネルギーシステムの構築の3つの柱について事務局から説明がありました。内容については①電力の自主的枠組みの強化②省エネ法③高度化法による措置、など旧来の枠組みや制度の活用で対応する方針が示されています。

 「長期エネルギー需給見通し」が、2030年石炭火力の割合を26%としているのは、パリ協定に逆行するものです。世界を見ると、アメリカでは厳しい石炭抑制政策を実施して、事実上、アメリカ国内での石炭火力発電所の建設も、輸出もできなくなっています。イギリスは、COP21直前の11月25日に、国内のすべての石炭発電所を10年以内に閉鎖することを発表しました。ニュージーランドも2018年に最後の石炭火力を閉鎖するとし、フランスでは、石炭発電設備の輸出補助を取りやめる方針を決めました。ドイツも老朽化した褐炭(低品位炭)火力を予備に回したり、旧式の石炭コージェネレーションを閉鎖することなどの検討が始まっています。日本だけが石炭火力に固執し、地球温暖化対策に逆行する政策を進めようとしています。

 また、2030年原発比率20~22%も非現実的というほかはありません。仮に原発の再稼働が進んだとしても、この原発比率を達成するためには、原発のリプレイス(建て替え)や新設が必要です。現在、日本全国で48基、2350万kWの石炭火力発電所の建設計画があり、もし原発比率が目標通り進まず、足りない分を石炭火力で賄うことにでもなれば、二酸化炭素排出は減るどころか、増加しかねません。私たち日本の市民にとって、まさにこれからが正念場です。

 気候ネットワークからは、パリ協定に定める、1.5~2℃未満の気候目標と、排出削減ビジョンを明記した地球温暖化対策基本法が提言されています。

 そして高村ゆかり先生からは、トヨタが2050年に世界で販売する新車のCO2排出量を90%削減し、工場からの排出をゼロにするという目標を「トヨタ環境チャレンジ2050」で示しているように、日本社会、日本企業は、日本政府よりも前に進んでいると述べたうえで、2020年までに提出が要請されている「中長期低炭素戦略」の策定の中で、パリ協定の精神を日本の政策に反映していうべきだと仰っています。

 地球温暖化対策の中心を占める、再生可能エネルギー政策について、安倍政権は再生可能エネルギーの伸びを抑える自然エネルギーの買い取りルールを導入しました。これは、原子力や水力発電をベースロード電源と呼び、太陽光、風力などより優先して電力会社が買い取ろうとするもので、原発の50基導入を前提とするため、九州や北海道など、再生可能エネルギーの設備認定量の多い地域では、接続申込量が接続可能量を超え、事業者が電気を売ることが2015年1月よりできない事態になっているものです。欧州では、再エネを原子力、石炭火力より優先買い取りすることになっており、再生可能エネルギー業界に対する妨害です。さらに、再生可能エネルギーを導入するためには、電力会社間の電力融通が必要で、このため送電網の整備が必須ですが、電力システム改革の中で設置された電力広域的運営推進機関が、再生可能エネルギーの増強に対応できる形で運営されるかどうか不明で、この機関の設置目的にこの趣旨をしっかりと書きこんでおかなくてはなりません。

 また、電力システム改革の中で行われた小売り全面自由化の中でも、電力会社は、供給電力の中の電源別割合を表示する義務がなく、消費者は電源を選ぶことができません。これが欧米の電力システム改革と全く異なるところで、日本の電力システムはあくまで原発、石炭火力を守ることが優先されています。

 パリ協定の締結を受けて、日本国内の世論、行政がどのように変化していくかについて日本再生第441号に東北大学の明日香先生のお話がのっていますが、その後半で日本の今後のエネルギー政策について、このように話されています。

 ある人が「今回の合意で経産省は全然OKだね」と言っていました。つまり、ほとんど変わらないということです。逆に、1.5℃目標達成のためには原発が必要だ、と強く言うかもしれませんし、「二十一世紀内にゼロにすればいいんでしょう、だったらもうちょっと後でやってもいいんじゃないですか」という主張もあるかと思います。もっと言えば、1.5℃ってそもそも科学とか現実とかけ離れた話で、そんなのはおかしいという人もいるかと思います。つまり、今の日本の状況や権力構造、社会システムが変わらない限り、温暖化対策がすぐに始まることはないだろうと思います。

 この記事の言葉をその通りに受け取ると、この経産省の職員は、省のために働く気持ちはあっても、日本が世界の潮流からいかに離れて行っても、あるいは日本企業が再生可能エネルギー社会への転換にいかに乗り遅れても、さらには地球温暖化が取り返しのつかないくらい進行しても、かまわないと思っていることになります。日本人、日本という国のすざまじい劣化を感じますが、もしかしたら、戦前の日本政府関係者もこんな感じだったのかもしれません。

 さらに、最近とみに感じるのは、社会に大きな影響を与えるこのパリ協定に関する報道が、非常に限定されており、世界の潮流が変わったことをほとんどの日本人が知らないということです。マスメディアが報道を自制してしまっているとすれば、日本が変わる可能性がありません。さらには、民主党が弱体化する中で、地球環境問題について理解し、話のできる政治家が極端に少なくなってしまったのを感じます。たぶん、大学の中からも、官僚組織からも、経済界からも、地球温暖化対策の必要性に理解ある人が消えているのではないかと大変心配になります。原発の再稼働をなによりも心待ちにし、それに邪魔になる再生可能エネルギーに関する報道を止めている感もあります。

地球温暖化対策講演会資料に戻る