山口克也のブログ

大気中の窒素の由来について

私が地球温暖化に関して行ってきた研究のテーマは、簡単に言うと、地球上の炭素の循環を回復することだった。このテーマでの成果の一部はこのブログでも書いてきたが、今日は、この炭素循環と少し離れた、窒素の循環という目で、少し面白い発見をしたので(別に私が一番に発見したというわけではないが)ここに書いておこうと思う。

それは、僕たちの吸っている空気の中にある窒素ガスがどこから来たのかということである。僕たちは小学生のころから、空気のなかの酸素は植物の光合成で出来たのだと習っている。ところが、大気の中に78%もある窒素がどこから来たのかについては、なにも習わなかったように思う。

最近、僕は、土のなかの細菌が、土中の硝酸塩などを窒素ガスなどに変えてエネルギーを得ている(この作用も呼吸という)説明図をぼやっと眺めているとき、おや?この大気中に排出された窒素ガスはそれからどうなるんだろう?これでは、窒素ガスは大気中に溜まるばかりではないか?もしそうなら、大気中にこれだけ窒素が多いのは、この地下の細菌群の働きが原因ではないのか?と思いつき、生物に無関係に窒素ガスが大気中に排出される化学メカニズムを探してみたが、どうも見当たらない。

それからいろいろ文献を見てみると、やはりどうも地球大気の窒素が、ほとんど生物由来であるということが分かってきた。窒素化合物を窒素ガスに変えて大気中に放出しているのは、「脱窒菌」や「光合成細菌」などであり、地下生物圏の働きが大きく影響していたのだ。

そこでふと、火星や金星の大気にも窒素ガスが含まれていたのではないか、ということが気になり、太陽系の惑星の大気組成を見てみた。そこで非常に面白い発見をしたのだ。

金星の大気には3.5%窒素ガスが含まれており、火星の大気にも2.7%含まれている。そして面白いのは土星の衛星のタイタンの大気の主成分(97%)は窒素ということだ。金星や火星には、かって生命が存在したか、あるいは現在でも地下に存在するかもしれず、タイタンには細菌レベルの生命が発生しているが、光合成の発明までには至っていないという仮説を考えることができる。

もっと調べてみると、アメリカ・南カリフォルニア大学のKenneth Nealson教授は2006年に「宇宙で生物の痕跡探しをするのであれば、水や二酸化炭素ではなく窒素を探すべきだ」、と発言している。私の勘もなかなかのものだと思った。

地下の細菌が地球の窒素をもたらした(これは仮説ではなく、科学界の通説になっている)という認識は、世界の見方を変える。少なくとも今私は、風を感じるごとに、「この空気の78%は、細菌がくれたもの、21%は植物がくれたもの、自分は地球の生命圏に支えられて生きているんだな」というしみじみとした思いを噛みしめている。

そして夜空をみて、それまで寂しかった夜空が、急に生き生きと、好ましいものに感じられるようになった。生命は宇宙に遍在している、という感覚だ。