急がなくてはならない地球温暖化対策

 このように、地球の環境に大きな負荷をかけないで現在の文化的な生活を維持するためのエネルギーシステムが姿を見せ始めました。今後は、再生可能エネルギーを世界的に融通するための送電インフラ(スマートグリッドと、世界直流送電網)の早期建設と、現在経済が爆発的に成長している地域で、化石燃料に頼らない社会・経済システムを構築していくことが必要です。世界は、この分野に日本人が貢献してくれることを心から望んでいます。原発に関する世界的な危機感の高まりにより、日本の原子力産業界はこれまで考えてきたプランが推進できなくなりましたが、これまでの考え方を無理押しするより、世界的に再生可能エネルギー時代が始まったことを素直に受け止めて、大きく可能性が開けた分野に事業を転換されていく方が、結果的に日本企業が世界に重要な貢献を果たせることになると思います。

 一方で、地球温暖化のスピードが予想を越えて加速しています。地球温暖化のスピードがこれまでのIPCCの予測のとおりであれば、人間が化石資源の使用量を減らすだけで、事態の悪化は避けられました。しかしながら、それだけでは加速している温暖化に対応できないことが明らかになってきました。温暖化の危機が極端に現れているのが北極海です。

 皆さんもニュースで聞かれたことと思いますが、今年の夏期の北極海の海氷面積は、観測開始以来最小を記録しました。これまでは夏の間も氷に閉ざされ、太陽からの熱を宇宙に反射していた北極海が黒い海面に覆われ、太陽からの熱を吸収し始めたのです。この状態が続くとグリーンランドの氷河が急速に融解を始めるとともに、シベリアの凍土の中に眠るメタンハイドレートが気化し、大気中に温暖化ガスであるメタンを排出し始めます。

 事態の悪化を防ぐためには、現在ベーリング海峡を通って北極海に流れ込んでいる暖かい太平洋水の流入をコントロールするしかありません。私は、この目的のためベーリング海峡ダムが必要だと申し上げてきましたが、今後も建設コストの試算や影響の調査を進め、ダムの実現に向けて可能な限りの努力を行いたいと思います。