やはり必要・世界みどり公社

みなさんご無沙汰しています。秋も深まってきた今日この頃ですが、この秋には、12月にパリで行われるCOP21(http://www.cop21.gouv.fr/en)という、今後の世界の地球温暖化対策を決める大事な会議に向けて、世界、そして日本でも、さまざまな動きがあります。

平成27年9月25日から27日まで、藩基文国連事務総長の主催による「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットが、ニューヨーク国連本部で開催され、私は光栄にも27日におこなわれた持続可能なエネルギーについてのサイドイベント(SE4Allサステナブルエナジー・フォー・オール関連イベント)に招待され、行ってきました。 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD220TE_T20C13A8000000/

 

25日は国連に、オバマ大統領、習近平中国国家主席、安倍首相など各国首脳や、フランシスコ・ローマ法王が集結した中、ローマ法王が国連総会の冒頭で演説されました。私は25日からアメリカにいたので、ローマ法王の訪米中の活動や、国連での発言について、テレビで洪水のように流された報道に接することができました。(http://rief-jp.org/ct8/55076

ローマ法王は、24日にワシントンの米議会でも演説し、気候変動対策への取り組みを呼び かけられています。ローマ法王は南米出身の初めての法王で、環境問題に関する「回勅」を6月18日に発表し、(http://www.iza.ne.jp/topics/world/world-7287-m.html) 全世界の信者・市民に対し、生活を見直し、地球温暖化問題と取り組み、12月のCOP21で有意な合意を得るよう強く求めています。

地球温暖化は日本だけでなく、世界中で猛威を振るい始めています。米国カリフォルニア州の1200年ぶりといわれる旱魃については
(http://www.huffingtonpost.jp/2014/08/01/california-drought-record-dry_n_5643496.html)皆さんもご存じだと思いますが、現在まさに深刻な状況にあるシリア難民、アフリカ難民についても、気候変動の影響が強く表れて発生しているという報道があります。(http://www.huffingtonpost.jp/2015/03/04/climate-change-fuel-the-syrian-conflict_n_6797512.html

今後、地球温暖化を緩和するために、人類の取りうる行動の指針となるIPCCの第五次報告書では、地球の温度上昇を産業革命以前から2度以下に抑えるためには大気中のGHG(温室効果ガス)濃度をCO2換算で450ppmに抑えなくてはならず、そのためには世界のGHG排出量を2050年には2010年と比較して40~70%減、2100年にはゼロ以下にしなくてはならないという厳しい、厳しい指摘がなされています。

そんななかで、人々に希望を与えているのは、世界の人々の認識の高まり、世界の政治の大きなうねり、そして再生可能エネルギー技術と産業の飛躍的発展です。世界の人々の認識の高まりを示すのは、昨年9月21日に世界各地で行われた温暖化対策への取り組みを訴える史上最大規模のデモ(People’s Climate March)で、ニューヨークでは約60万人が6番街などの目抜き通りを埋め尽くしました。

(http://www.huffingtonpost.jp/jusen-asuka/climate-change-policy_b_6796676.html) 世界の政治では、今回の国連総会だけでなく、アメリカと中国という二大排出国の代表が、様々な場で再生エネルギーの導入など温暖化対策への取り組みについて決意を表明していますし、各国の現実の政策にも反映されてきています。そして再生可能エネルギーに関しては、EU・中国・アメリカなどにおける急速な拡大に加え、2011年の国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の発足と同機関の2014年に発表したREmap2030(2030年に向かっての再生可能エネルギーのロードマップ)に象徴されるように、将来に向けてどのように再生可能エネルギーを発展させていくかという道筋が見えてきています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/energy/irena/gaiyo.html

IRENAの発足につながった国連の重要なイニシアティブが、潘基文国連事務総長が2011年に開始した、政府・民間企業・市民団体による パートナーシップ「万人のための持続可能なエネルギー」(SE4All)です。わたくしが参加したSE4Allの会合で今回配布されたのは、持続可能エネルギーに関するファイナンスについての報告書でした。
http://un.org.au/2015/07/14/se4all-advisory-boards-finance-committee-report-on-scaling-up-finance-for-sustainable-energy-investments/
(SEA4Allのその他の報告書についてはサステナブルジャパンのHP
http://sustainablejapan.jp/2015/06/17/se4all-report/16363 参照)この報告書で、藩基文事務総長の序文に引き続き、世界銀行総裁ジム・ヨン・キム博士が次のような序文を書かれており、これがSE4Allの現在の立ち位置を明確に示しています。一部を引用します。

より持続可能な未来を作り上げると同時に近代的なエネルギーサービスを世界の貧困に苦しむ人々に届けることは我々の時代の枢要な挑戦です。世界どこでもエネルギーにアクセスできること、世界のエネルギーミックスの中で再生可能エネルギーを倍にすること、そしてエネルギー効率の改善幅を二倍にすること、この三つのSE4Allの目標を2030年までに達成するためには、クリーンエネルギー技術分野におけるイノベーションとより大きな投資を必要とします。

公的な開発補助と、公的なファイナンシングは、この努力において、特に発展途上国のエネルギーアクセスを向上させるための要となります。しかしながら、世界的なニーズは公的な資金が供給できる量をはるかに超えています。すべての種類の民間資金と投資を呼び込むために公的資金を用いることは我々の責務であります。究極的には民間部門が我々のエネルギー目標を達成するための最重要プレーヤーとなるでしょう。

この三つの目標を達成するためには、年間のクリーンエネルギーに関する投資を、現在の4千億ドルから1兆ドル超にまで増加させなくてはなりません。このレポートはいくつかの有望な解決方法を指し示しています。それは、グリーンボンドの発行、保険商品やその他の商品を使った、リスク回避のための投資、そして小規模のエネルギー投資を束ね、構造化していくことです。同時に各国は持続可能なエネルギーについての政策を強化し、貿易障壁を取り払い、公営企業の効率を改善し、化石燃料に対する補助金を取り除くことにより、投資環境を改善しなくてはなりません。

そしてこの報告書が、世界銀行、バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ブラジルナショナル開発銀行、アジア開発銀行、ブラジルエネルギー省、カーボンワールーム、ヨーロッパ投資銀行、地球環境ファシリティー、韓国Eximbankなどの協力のもとで作成され、世界中の銀行や投資家に向けて発信されていることが重要です。金融界が動いたということでしょうか。そして、当日の数十か国の参加者・登壇者のほとんどが、再生可能エネルギーによって、エネルギー問題と温暖化問題を同時に解決しようと、強い思いを語られていました。

しかしながら、地球温暖化対策がすべて順調に動いているかというと、それは全く違います。
まず、京都議定書で、地球温暖化対策の切り札となるはずだった排出権取引はうまく機能していません。日本国内におけるCO2排出枠は、ついに価値がなくなりました。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD220TE_T20C13A8000000/
国連のクリーン開発メカニズム(CDM)の取引は激減し、またEUが世界に先駆けて導入した排出量取引も価格が低迷しています。最近は、米中が、排出量取引に積極的に取り組むと表明していますが、他の対策を後回しにする口実にならないか心配です。

さらに、日本においては、安倍政権のもと、地球温暖化対策と再生可能エネルギー政策の遅れが際立ちます。日本政府は、削減目標を2030年に2013年比26%減という、EUの1990年比で2030年に40%減、アメリカの2005年比で2025年26-28%減と、見た目は近い数字を出していますが、日本は、1990年から2013年に排出量を11%増加させていますから、「下駄をはかせた数字だけを作って、日本は削減に対して後ろ向きだ」と世界から評価されているのです。先ほどから述べてきたSE4Allの会合でも、日本の代表だけが、再生可能エネルギー導入ではなく、エネルギー効率の改善について話をされ、それは日本がエネルギー効率の改善についての委員会の代表なのでしかたがないところもあったのですが、非常に会議の場から浮いている印象を受けました。そして、ほぼすべての先進国が石炭火力発電所の建設抑制を行う中、日本国内で多数の石炭火力発電所の新規建設が計画されていることが今後世界に知られてしまうと、日本は温暖化政策を完全に放棄し、世界を破滅に導く国だという評価をされてしまうかもしれません。

日本においても、世界においても、まだ化石資源の既得権益と、再生エネルギーへの転換を目指す勢力との調整ができていないのです。SE4Allのファイナンシングの新レポートについても、新たなサービスを社会的に作るのであれば、レポートの示す通り投資が順調に進みますが、再生可能エネルギープロジェクトはこれまで化石資源でやってきたサービスの置き換えですから、新旧産業の調整がうまくいかないと、お金を投入しようにもプロジェクトがうまく立ち上がらない可能性があります。そしてさらには、世界中が期待している12月のCOP21についても、現在各国が事前に提出している削減量を積み上げても温暖化を止めるに必要な量に遠く及ばず、(WWFジャパン報告)さらに各国の削減量の中にはCCS技術(炭素貯留技術)による削減量が多く含まれ、この技術が失敗した時には人類は他に打つ手がない状況です。
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/10/10-1/qa_10-1-j.html

そこで以前からわたくしが提案してきた、「世界みどり公社」がやはり世界に必要なのではないかという思いが強くなりました。この世界みどり公社の基本コンセプトは、再生可能エネルギーへの移行を求める人たちと、化石資源の既得権者、そして化石資源の値上げによって影響を被る発展途上国のエネルギー弱者の三者の利害を調整し、すべての人がアクセス可能な持続可能なエネルギー供給を行いつつ、地球環境の要請を満たすところにあります。

私は、これを実現するためには、全世界の化石資源の生産と大規模な販売を管理する公社、専売公社を作り、その会社が現在の関係企業から権益を買い取ればよい。そして、権益者への支払いと、再生可能エネルギーへの投資、地球温暖化で生じる緊急的な被害への対応、そして、世界すべての人々に再生可能へのアクセスを可能とするための資金を生み出す価格で、化石資源を販売すればいいと考えました。

化石資源には燃料としての用途と、原料としての用途があり、原料用途における付加価値がずっと大きいのです。化石資源の使用量を減らしていくある段階までは、化石資源の燃料としての使用を減少させ、化石資源が原料としてのみ使用されるようにします。価格を上げることによって、この産業に支えられている人々と国を守りながら産業転換を行っていき、燃料価格の上昇で困る発展途上国の人々には再生可能エネルギーインフラを供給することで対応するべきだ、またこの公社をつくらなくては対応できない、地球規模の事業があるというのが私の主な主張です。(詳細はhttp://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/10/10-1/qa_10-1-j.htmlまたはhttp://yamaguchikatsuya.net/messege/messege2.html
世界は動いています、世界にこの世界みどり公社の必要性を訴えるため、これからも頑張ってまいります。