COP21の結果が意味するもの

「パリ協定を受けて政府はかつてない規模と速度で気候変動に取り組むことになる。低炭素型経済への移行を食い止めることはもうできない。化石燃料の時代は確実に終わる
欧州の環境保護団体EG3の代表が述べたこの言葉が、今回のCOP21の意味を端的に表現しています。

今回のCOP21にアメリカやフランスがどれほどの決意で臨んだかは、私のHPに添付したアメリカのオバマ大統領の演説、フランスの洗練された会議運営を見れば理解していただけると思います。今回のCOP21が「歴史的転換点」「脱炭素社会への道筋をつけた」と評価されるほどの成功を収めたのは、地球温暖化の現実的被害が世界各地で生じ、各国が地球温暖化対策に対して前向きになったこと、そして長期にわたる欧米の強いリーダーシップがあったことが背景にあると思われます。2014年11月の米中両首脳による温暖化ガス削減に関する合意、2015年9月末のCOP21成功を祈ったローマ法王国連総会演説、そして昨年12月15日の時点でEUを含め187か国、世界の排出量の98.6%に相当する国々が国別削減量目標を提出するなど、成功への道は早くから敷かれていました。

COP21の合意については、各国の削減目標がまだまだ不十分で、さらに削減量に法的拘束力がないという批判がなされますが、この2点は、そもそもこの会議に入る前から会議の目標として強くは求められていませんでした。今回の会議で目標とされたことは、長期的、継続的に地球温暖化対策を行っていくための、世界の目標と枠組みについて決定することだったのです。

私は、まだ手もとにパリ協定の全文をもっておりませんが、会議に参加した研究者、環境省、マスメディアの報告に基づき、どのような目標と枠組みが定められたのかを簡単にまとめておきます。
●世界の平均気温の上昇を、工業化前と比して、2度を十分に下回る水準にし、1.5°Cに抑制するように努力する。
●気温抑制目標の達成のため、排出量を速やかに頭打ちさせ、今世紀後半に温室効果ガスの人為的排出と人為的吸収を均衡させ、排出を実質ゼロとする。
●温室効果ガスの排出を低く抑えたままでの開発を推進させる。そうした開発につながる資金の流れをつくる。
●各国は達成を目指す目標を作成し、報告し、削減の国内措置をとる義務を負う。長期の低炭素発展戦略を2020年までに提出する。先進国は絶対排出量目標を約束する義務があり、途上国は当面は行動目標将来的に数量目標に移行。
●五年ごとに削減目標を提出。後戻りをすることは許されない。
●途上国の気候変動対策に先進国が2020年まで年間1000億ドル支援。2020年以降も資金援助の約束をした。
●世界の排出量の55%に相当する55か国の批准後30日で効力発生。

COP21期間中に行われた関連イベントにも重要なものがありました。
・自治体リーダーのための気候変動サミット
 パリ市主催により約700の地方自治体の首長または関係者が「COP21への積極的寄与のためのパリ市役所宣言」を採択
・サステナブル・イノベーション・フォーラム
 関連ビジネス会合 アイスランド、独、メキシコ、モロッコ、ペルー、NZ等の首脳、閣僚、国連環境計画、米国開発銀行等の幹部が登壇し、「カーボンプライシング」の支持を表明
・カーボンプライシングサイドイベント
 独、仏、加、メキシコ、チリ、エチオピアの首脳と世銀総裁、IMF総裁が世界的に炭素の価格付け政策とその価格を上げていくことを宣言。炭素の価格付けを求めていくカーボンプライシングリーダーシップコアリションを90近くの政府・企業・NGOで発足
・ミッション・イノベーション立ち上げ式
 クリーンエネルギー関連の研究開発強化に係る国際イニシアチブ「ミッション・イノベーション」の立ち上げ。(安倍総理、オバマ米大統領、オランド仏大統領、モディ印首相、ビル・ゲイツ氏等)

こうみると、全体として、二酸化炭素の排出に対する価格付けに向けて、大きな流れがあるようです。日本の提案した、CDM的な市場メカニズムを利用して、国内の炭素排出権を残そうという努力は、この段階でほとんど意味を失っています。

COP21後、世界の石油価格等が下落し、株価にも影響を与えています。石油・石炭等を将来的に使わないと宣言しただけであれば、このような経済的なマイナスが今後世界経済に強く表れますし、化石資源価格の下落が、再生可能エネルギーの導入に悪影響を与える可能性もあります。そこで、カーボンプライシングのシステムはどうしても必要なのです。
私が昔から述べてきた化石資源の専売制度の意味が出てくる可能性があります。この手法については別項で説明いたします。また、このような世界の動きの中で、日本はどのような立場にあるのか、あるいは今後どうしていくべきなのかについても、近日書かせていただく予定です。