◆ 副島隆彦の「恐慌前夜」を読んで (2008年10月9日)

「恐慌前夜」を読んだ。リーマンブラザーズ破綻や、株価の際限のない破綻を予見し、この破綻を導いた真の原因である、アメリカの証券会社や投資銀行のビジネスモデルの歪みを白日の下にさらす、恐るべき本であったと思う。いかに、日本の企業や銀行、そこに働く人たちが、このビジネスモデルのもとに搾取され、辛い目にあってきたかを考えると、現在雪崩を打って崩壊しているこのモデルは、もっと早くに崩壊するべきであったという思いがする。

私は、この本を副島氏のほとんどの言説に共感しつつ読んだ。しかしながら、どうしても同感できなかったのは、この本の最後にあった、アメリカの今後に関する重要な一文である。

アメリカの金融侵略軍は、今静かに日本からの撤退を開始した。戦後62年目で、アメリカはついに崩れ始めた。これからアメリカ帝国の地獄の苦しみが始まるのである。

という、この本の最後のくだりである。アメリカ帝国はこれから本当に地獄の苦しみを味わうのだろうか?

ビジネスモデルが消えたのだから、いまからいくらアメリカ政府が銀行や証券に資本注入をしても、これらの企業が今後現在のままの事業を継続することはありえない。これらの企業の大規模な破綻が今後とも続くものと思われる。しかしながら、そんなことは、アメリカの政府は最初から分かっている。つぶして、また修正してつくりなおせばよいと考えているはずだ。

アメリカは、この間住宅を供給し続けた。住宅価格は大幅に下がり、建設会社は大量に倒産するだろうが、国民の住むところはある。また、国民の衣、食もどう考えても足りている。国民は破産した人でさえ、借金が免除されてピンピンしている。個人消費は旺盛なのだ。製造業を行うためのインフラは、ほとんど失われてしまったが、株式の価格がとことんまで落ちたら、あとは世界的に資金は行き場を失っているので、アメリカが世界にあらたなアメリカ社会の「めざすべき姿」今後の「発展するであろう産業」さえ提示できたなら、世界からアメリカに資金はいくらでも入ってくる。アメリカは資産さえもっていれば、働かなくても食べていける国にすでになっているのだ。悲惨なのは、働き口を失ったアメリカの貧困層であり、アメリカ帝国が苦しむわけではない。

問題は、政府に最後に集まってくる赤字をアメリカ政府がどのように処理するかだ。副島氏によると、アメリカは中央銀行と国家そのものを破綻させて、債務不履行にして、そして、そのあと破産法に基づく破産団体にする。あるいは民事再生法で、対外的な(外国からの投資金などの)債権をすべてチャラにする気だ、と書いている。そのために米ドルを三分の一に切り下げてもかまわないと思っている、というのである。

この副島説によると、やっぱり泣くのは日本、中国なのではないか。日本にとって大事なのは、まずアメリカの破たんからうける損害を最小にすることである。そしてアメリカが目指すべき姿についてそっと助言することであろう。「戦争経済」に突入するのではなく、「地球温暖化との闘い」のためにエネルギー転換をし、必要なあらたな産業インフラをつくることにより経済を回復させましょうと。

それでは、このような状況のもと、日本は何をすべきなのか?

補正予算が衆議院で可決されたが、株価の下落や経済状況に対応するため政府は、新たに第二弾、第三弾の経済対策を迫られるだろう。

これらの経済対策の中には、日本が世界経済のなかにおいて、目指すべきヴィジョンが織り込まれていなくてはならない。日本の将来を憂う者として、一言私見を述べさせていただきたい。

一番大切なのは、不況が長期にわたって日本に大きなダメージを与える分野への手当である。すでに1990年代後半からの経験によって、政府は若者に適切に就業機会を与えないことが、いかに長期的に社会的に“手のかかる”人たちを作ってしまうかに気がついたことだろう。就学の途中、あるいは社会人として育っていく時代の早いうちに適切な指導をうけないと、人は社会に貢献できる力を身についけることができない。単純な仕事しかできない、社会のお荷物になってしまうのだ。これは当人たちにとっても、社会にとってももっとも不幸なことだ。そこで、政府は国民の雇用と修学への援助をなによりも優先して行わなくてはならない。

同時に、アメリカについても書いたが、日本においてもこの機会に地球温暖化に対応できる社会体制をなんとしてもつくっていかなくてはならない。日本は、再生可能エネルギー社会が成り立つことを世界に知らしめるべき責任がある。この分野に経済対策として使うことのできる資金を充てるべきである。

日本はこの機会に、日本中の廃棄物処理場など、他に使い道のない場所に太陽光発電基地を猛スピードで作り始めるべきだ。事業主体は、電力会社でも、地方自治体でも、民間でもかまわない。事業の採算が合うようにするために、再生可能エネルギーを電力の市価よりも高く買い上げる固定価格買い取り制度を導入するべきであり、その財源としてかつての道路特定財源の一部も利用するべきだ。

当面の経済対策としては、市町村や企業が発電基地を整備するための費用を全額補助するくらいのことをしたらどうか。この部分は土木工事だから、社会に広く資金をまわすことができる。

社会の転換期である。必要な分野に集中してお金を使ってもらいたい。

 

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