吹田市議会議員 山口克也
会派 千年のまちづくり 議会レポート 平成27年2月号

なぜ国循吹操移転問題が生じたの

吹操跡地におけるエコ・メディカルシティー構想は、市民が知らない間に国循・吹田市民病院の吹操跡地への移転計画にすり変わっていました。これを可能にしたのが、「医療クラスター」という魔法の言葉でした。「医療クラスターが出来て吹田市が世界的な医療産業都市になる」という期待をもって吹田市は市民病院を吹操跡地に差出し、国循は千里ニュータウンの最高の立地を捨てて吹操跡地に移る決定をしたのです。経済的利益を求めて、吹田市は長い間かけて築いてきた、千里ニュータウン・市民病院周辺のまちの形や福祉施設の集積を投げ捨てる決心をしたのです。
ところが、「医療クラスター」は事実上出来ないことが分かってきました。


どうしてこんなミスを吹田市が犯したのかどうしたら引き返せるのかについては、このレポートで説明させていただきます。ここでは、今回の具体的な問題をより大きい視野で見て、産業と都市の関係にからめて少し書かせていただきます。
最近、日本の諸都市における産業の変遷を調べる機会があり、殆どの都市でここ数十年の間に産業が完全に変化していることを知りました。まさに「産業は川の水、都市は川底の石」なのです。都市は産業の変遷に耐えうる本質的な魅力を持たないと維持する事が難しいと感じました。このような観点で吹田市をみますと、吹田市の「万博記念公園」「千里ニュータウンを初めとする良好な住宅地」は、まさに吹田市の都市の魅力と強みそのものであり、一時の産業の振興のために都市魅力を失うことなく、しっかりと維持する事により吹田市は京都・奈良と同じように千年続くまちになりうると思いました。最近大阪府の有識者会議が太陽の塔について「将来的に世界遺産登録を目指すべき」という答申をしたこともあり、私は、この思いは大阪に住む多くの市民、有識者に共有されたものだという確信を持っています。(ご興味のある方は私のASREAD に書いた記事をお読みください。)
asread.info/archives/author/yamaguchikatsuya

私たちがこれから千年続くまちに住んでいると考えた時、街は私たちの目に、違った様相を現わします。私たちは、身近な所から、千年先の人に恥ずかしくないようにこの街をもっと良くしたいと思うようになります。そして子育ての活動一つにしても、この千年のまちを担う人材を育てる仕事になるのですから、誇りが生れてきます。そしてまちに住む人たちの間で連帯感が生まれてきます。このような観点から「吹田千年のまちづくり」を意識する事は良いことだと確信しています。

 なぜ国循吹操移転問題が生じたのか

吹田市は、もともと国循の現地建替えを進めていましたが、市長を始め吹操移転派が優位となり、国循内の医療クラスター推進派と結びつき、他の関係者とも結んで、移転の手続きを進めて行きました。国や市議会には①国循の現地建替えは不可能②吹田市民病院は老朽化で建替えやむなし③世界的医療クラスターが出来るという3つの嘘をついて許可を得、市民には吹操への移転を決定済み事項として伝えました。

このように関係者間の協力関係が出来たのなら、移転がスムーズに行われるのが普通です。ところがそうならなかったのは、ここに、医療関係企業・研究所が加わらなかったからです。それは、彼らにとってより適した立地(神戸医療産業都市等)があったか、吹操跡地に欠けているインフラがあったからでしょう。

そこで、吹田市は吹田市民病院を移転してまで、医療クラスターに近いものを作ろうとしました。このため、吹田市は、現病院の傍にある市民病院の存在を前提にしている諸施設(介護老人保健施設・杉の子学園・わかたけ園・いくつもの特養・医師、看護師のための施設など)を無視し、それよりもなによりも、吹田市の医療のために、病院をどこにおくのが適切かの調査さえしないで病院の移転を決定しています。市民への医療サービスのためでなく、吹操跡地開発のために移転を進めたのです。

国循・吹田市民病院の移転は冷静に検討するなら、決して行うべきものではありませんでした。それは、国循現地建替えケースと吹操移転ケースで、最終的に出来上がるものを比較するなら、一目了然だからです。

    国循現地建替えの結果

   国循吹操跡地移転の結果

・国循・阪大・千里金蘭大学などのクラスター (医療と大学・研究機関のまち、静謐な住宅地)
・現在の吹田市民病院と周辺の医療・福祉関係の集積はのこる
・吹操跡地は近隣の住宅地の将来の発展に つながる花と緑の総合開発

・吹操跡地の隣接した国循と新吹田市民病院
・国循跡地利用は未定。マンション化の懸念も
 千里ニュータウンの求心力下がる
・吹田市民病院跡地は未定。
 民間への売却濃厚

 周辺の関係者が困る

・現地建替えよりも300億円以上高いコスト

 

吹操跡地移転の場合、隣接した国循と吹田市民病院の連携がうまくいくのか非常に疑問だという人もいます。
この結果 どちらの方がよいかという議論の決着はもうついています。国循現地建替えが良いという人が圧倒的多数です。吹田市は、ここまで進めてきたのだから、やらせてくれと言うだけです。


ここまで事態が明白なのに、吹田市にはまだ国循に対し、現地建替えに戻してくれるよう申し入れる気は全くありません。それは、行政にはそもそも一旦決定した事を中止するシステムが備わっていないということと、政治の中心である市長が、吹操移転に固執しているからです。それゆえ、建物の建設が始まる前にこの状況を逆転させるには、まず吹田市の市長を変えるしかなのです。


 

市民が選挙で国循現地建替えへの意思を示すと、吹田市で市長が交代し、今年中に交代する国循の理事長が現地建替え派に変わる可能性が高くなります。そうなると、市議会も国も特に国循の吹操移転に固執する理由はないので現地建替えを認めるでしょう。工事関係者や吹操跡地の土地売却の関係者については、さまざまな説明や調整が必要でしょうが、最終的には納得してくれるものと思います。このように市民のイニシアティブで国循現地建替え、市民病院の移転中止は可能なのです。

私が広く個々の吹田市内の医療関係者にヒアリングをしてお聞きした気持ちは、吹操移転中止を求めてほしいというものでした。それゆえ、この私の提案は、市民感情に合致していると思います。しかしながら幅広い層の市民が、この問題を自分のこととしてとらえるかについてはさらに疑問が残ります。そこで、私は多くの市民の賛同を得るため、この吹操移転中止によって使わなくて済む300億円を超える吹田市の資金で、吹田市はこれまでできなかった多くの福祉、文教政策を行えるということを伝え、市民の賛同者を増やしていけばよいと思います。可能になる政策の一例として、下記の政策パッケージを提案します。

不評だった“事務事業見直し”の見直し

 ◎福祉巡回バス(きぼう号)の復活
 ◎はり・きゅう・マッサージ助成事業
 ◎ごみ分別排出啓発事業(家庭用ゴミ袋無料配布)
 ◎高齢者理美容補助事業 等

すべての公立・小中学校を計画的に改修・改善
 ◎エアコンの設置
 ◎全てのトイレを洋式化
 ◎必要性の高い学校からエレベーターを設置
 ◎学校図書館を充実
 ◎学校校舎の改修
 ◎中学校の全員給食
 ◎放課後児童クラブの充実 等

高齢化に向けて地域包括ケアシステムの構築
 ◎地域包括ケアシステム
(住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供)の構築
 ◎要支援1・2の被保険者に対する市単独事業の充実
 ◎地域密着型(介護予防)サービス
  入所型施設サービスの誘致・充実
 ◎成年後見制度の充実
 ◎介護予防のための運動施設の建設

医療・生涯学習の充実

 ◎市民病院の機器の更新
 ◎高齢者の集う場としての高齢者大学と
 活動促進のための地域通貨の導入
 ◎中央図書館を建替え
 ◎片山地区、岸部地区に地区図書館を新設
 ◎博物館にチルドレンズミュージアムを併設


 

 井上市政に対する評価と新しい市政に対する期待について

井上市政は吹田市のあるべき市政の姿を考える上で、見事な反面教師になるような市政だったと思います。

まず、井上市長は最近、「財政非常事態を乗り越えました」というビラをまいておられますが、就任の当初から、自分の任期の最後に「自分はこれだけの財政改革を行い吹田市財政を改善しました」という数字をつくって再選
しようという目論見をもっておられたかのようです。全く財政状況の悪くない吹田市で「財政非常事態宣言」を行い、市民の悲鳴に耳を傾けることなく「事務事業の見直し」を行いました。廃止された事務事業の中には、障害者や高齢者の心の支えであったような事業や、家庭用ゴミ袋無料配布の廃止など、金額は大きくありませんが、ゴミ袋の配布を通じて自治会への加入の促進を図っているという事情を無視したものもありました。福祉巡回バスを廃止し、現在の市民病院への通院を難しくした上で、交通の便が良いとして岸辺駅前に市民病院を移転しようともしました。結局「生活者の視点を持ちあわさなかった」というのが一つ目の反面教師として際立つ点です。

二つ目は、「甚だしく、吹田市の運営に悪影響を与えた」ということです。
井上市長は市長の後援会関連企業との単独随意契約に関して、市議会の地方自治法100条を根拠とする調査特別委員会、市役所のガバナンス委員会の調査対象となり、100条委員会からは吹田市に少なくとも800万円の損害を与えたという報告書が出されました。この損害額は一見小さなものに見えますが、市長の責任の有無を確認するために、市役所の職員や議員が費やした時間と労力は莫大なもので、市の事務事業を1年以上にわたって大幅に遅滞させました。議会における二回の問責決議の可決や不信任案の提出など、吹田市の名誉を失墜させた上、さらにはそのような事件を引き起こしたことに対する反省も全く感じられません。

三つ目は、「吹田市の財政を甚だしく悪化させる可能性のある議案を出し続けた」ことです。
吹田市政において、これだけ議会から否決される議案を出し続けた市長はいないと聞きます。具体的な議案について名前を上げると、その当否については議論が分かれたわけですから、中途半端な説明ができないのでここでは差し控えますが、市議会の議論により否決されるのは、議案が吹田市に損失を与える可能性を含んでいたからです。私が述べた「吹操跡地への国循・市民病院移転」が典型ですが、多くの市議会議員が、井上市政から吹田市を守るために一生懸命働いた四年間だったと言えます。

ですから、私は市議会議員として、新しい市政に対しては、是非とも「生活者の視点を重視し」「市の職員が仕事をしやすいように、良い協力体制をつくり」「長期的な視点で吹田市・吹田市民に利益のある選択を行う」ことを期待したいと思います。

 

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