地球温暖化の科学

・COP21で、世界が救われる枠組みができたと喜ぶ参加者たち。世界は21世紀の後半までに化石エネルギーから脱却し、二酸化炭素の排出を事実上ゼロにすること、そして地球の気温上昇を1.5度から2度までに抑えることに合意しました。一方で日本国内ではCOPにおける興奮や感動が全く伝えられていません。
 たしかにCOP21は、偉大な一歩でした。しかしながら、この一歩が本当に地球の状況を変えるためには、各国の目標を達成するための地道な努力が、これから必要になのです。
 各国が目標をクリアーするためには、市民へ啓蒙と、産業の転換、エネルギーシステムを変えるための、世界的なインフラが必要になるはずです。
 今回の、一種の市民革命ともいえる大きな一歩に乗り遅れた日本は、これからの国内対策に非常に大きなエネルギーを要します。しかしながら、地球温暖化の脅威から子供たちや生態系を守りたいと思うのであれば、この困難に立ち向かう必要があります。

・今日は、皆様自身が、情報の氾濫の中でも、自分の力で、地球温暖化についての情報、エネルギー転換についての情報を取捨選択し、今後なすべきことについて判断できるよう、お話をしたいと思います。日本のマスメディアは、科学的に体系づけられた情報や、世界の大きな動き(例えば地球温暖化と闘う科学者の集団や、地球に張り巡らされた観測網、国連を中心とする世論の形成など)について市民に伝えることに成功していません。

・私たちはまず、なぜ温暖化が進み、それがどうして危険なのかを知る必要があります。
まどろっこしいいが、ここをきちんとしていないと、今回のCOP21の決定についても、もしかしたら京都議定書のように、どこかの国が外れて、無力化するのではないかという疑問が生まれてきます。地球温暖化の科学の基礎になるのが炭素循環についての知識ですのでここから始めます。文体が変わることをお許しください。

・まず、地球はどろどろのマグマオーシャンとして生まれた。たくさんの微惑星がぶつかり合い、粉々になって、熱をもち、中心まで液状の地球が生まれた。熱が保たれたのは、二酸化炭素と水蒸気が大量に含まれた100気圧以上の大気が存在したから

・中心に重い鉄でできた核ができ、ケイ酸塩(岩石)が上部に浮かび上がり、さらにその上部に軽い元素が多く含まれる地殻ができた。そして大気が冷えてくるにつれ、雨が降り、強酸の海ができた。強酸が岩石と反応して海水の酸性が下がると、この水に二酸化炭素が溶け込み、大気中の濃度が下がり、地球の表面温度はさらに下がった。この時点ではまだ、地球表面に陸はない。

・薄い地殻(将来、海洋地殻となる)はもともと対流をしていたが、水と反応した岩石は軽く、対流時、地球の中心に落ちていくことができず、地表に取り残された。それが集まって陸を形成していった。

・軽い元素が集まっているのが地殻であるが、地殻の構成元素をみると、ほとんどがケイ素と酸素であり、炭素は14位でわずかしかないことが分かる。0.08%、調味料程度である。
 しかしながら、この炭素が、地球の誕生から、生命の数度にわたる大絶滅まで、さまざまな大事件を引き起こすのである。

・生命圏が生まれるまでの地球表面の炭素循環を示した図である。地球の模式図であり、深いところから、核、マントル、海洋地殻がある。海洋地殻の上に、海と、大陸が乗っている。その上に大気がある。大気は高圧で、多くの二酸化炭素を含んでいた。高温高圧下では水と二酸化炭素は反応して有機物を作る。海洋は薄い有機物スープのようになった。また、二酸化炭素は高温下で海中のカルシウムイオンと反応して石灰岩になる。

・海底で沈積した石灰岩は、マントルの対流、プレートテクトニクスにより陸地の下に引き込まれ、陸地に付着したり、あるいは変性して石油、天然ガスになったり、さらに深くまで引き込まれ、高温にさらされてマグマの一部となったりする。マグマが地殻の切れ目から地球表面に上昇し、低圧になると、二酸化炭素はマグマから分離して大気中に放出される。火山ガスの多くの部分は水蒸気と二酸化炭素である。この模式図で大事なのは、地球におけるほぼすべての炭素の存在形態と動きがここに示されているということである。

・生命は地底で生まれたという説が強くなっているが、地球の炭素循環が大きく変わったのは生命が光合成能力を手に入れたときからである。大気中の二酸化炭素が生命に取り込まれ大気中の二酸化炭素分圧は下がった。話はとぶが、古生代、石炭紀に大気中の二酸化炭素分圧が下がりすぎて、地球がスノーボールアース状態になったと言われている。
 現在の地球と同じくらいの低温下で、生命の光合成とサンゴなどの固定、さらには微生物の働きで、二酸化炭素は有機物、そこから変性した石炭などの炭化水素、石灰岩、メタンハイドレートという形で、蓄積していく。メタンハイドレートは、有機物がメタン生成菌によって分解されてメタンとなり、水和して形成されるもので、(非生物起源--マグマ起源説もある)かなりの量が陸上にも海中にも存在する。二酸化炭素が大気中にもどされるのは生物体の分解(呼吸)と火山ガスの噴出を通じてである。

・現在の地球の炭素の存在形態について見ておくと、そのほとんどが石灰岩であることは間違いがないが、その総量は推定できていない。次に多いのがメタンハイドレートであり、その次に多いのが石油石炭などの炭化水素である、陸上の生物体が、土壌中の生物、森林なども含めて次に多い存在形態であり、海中に含まれる二酸化炭素、生物よりもずっと多い。大気中の二酸化炭素は、これらと比べるとごくわずかである。しかしこのごくわずかが増加すると大変なことになるのであり、今は炭化水素に含まれる炭素を大気中に引っ張り出してきたから大変なのであるが、メタンハイドレートが崩壊すると本当に大変なことになるのである。過去古生代最後のペルム紀の末に地球の高温化による生物の大絶滅が起こったが、このとき、大規模な地殻変動、マグマの地上への噴出と、それに伴うメタンハイドレートの崩壊がこの大絶滅をもたらしたという説がある。メタンハイドレートは低温下でのみ安定な物質であり、これが崩壊しないように、地球の温度を上げずにそうっとしておかないといけないのである。

・ここで、先ほどの炭素循環の模式図に、現在の産業社会が何をしたのかを書き込む。そうすると、大気中に二酸化炭素が蓄積する理由と、危険性が一目瞭然となる。炭化水素の燃料、原料としての使用が、燃焼、ごみ焼却による二酸化炭素の排出をもたらし、高温化で海と森林が二酸化炭素の吸収能力を失う。メタンハイドレートの崩壊という悪魔のサイクルが動き出さないよう祈っているのが現状である。

ここまでが炭素循環についての概略の説明ですが、大切なのは、ここまでで述べた知識の多くが、現在における人類の科学の到達点であり、思考の前提にしなくてはならないものだということです。疑いを持つな、と言っているわけではありませんが、何か一点でもその知識をひっくり返すためには人生をかけた研究が必要になるものだと思ってほしいのです。
そうすると、これらの知識をもとにして地球温暖化に関する懐疑派の出してくる疑問のいくつかについて自分の力で答えることができるようになります。

・まず、石油や石炭はそのうち枯渇するから、二酸化炭素による温暖化は重要なことではないという人がいたが、それが嘘であることが分かる。

・温暖化したから、海水などから二酸化炭素が出てくるのであり、二酸化炭素が増えたから温暖化するのではない、という説は、地球の歴史によって否定されていることが分かる。

・地球温暖化懐疑派は、近年の温暖化を、二酸化炭素の濃度ではなく、地球の公転軌道が正確な円でないことなどに起因する日射量変動によるものだとしたり、火山や工場自動車などの煤塵が与える影響を問題にしたりするが、それらの影響は後に述べるIPCCの研究の中で、地球の平均気温にどのような影響を与えるかが予測されており、その結果、二酸化炭素の影響が最大で第一次的なものであるというのが科学的結論となっている。

・二酸化炭素ではなく、水蒸気が温暖化に最大の影響を与えているのではないか、という説もあったが、「大気の窓」について理解すると、その説は誤りであることが分かる。
地球と宇宙の温度のエネルギーのやりとりは、電磁波(光・電波など)によっておこなわれているが、大気の窓とは、大気による吸収の影響を受けずに地表に到達しやすい電磁波の波長領域のことで、赤外線や一部の電波がこの窓を通り抜けることができる。水蒸気も温室効果ガスであるが、温室効果ガスは種類によって吸収する電磁波の波長が異なる二酸化炭素は赤外線など、大気の窓を通り抜ける波長の電磁波を吸収し、大気の窓をふさぐ効果があるので地球温暖化の原因となっているのである。

・懐疑論の中に、現在地球は氷河期の中の間氷期にあたり、危惧すべきは温暖化ではなく、寒冷化であるというものがあった。これについては、現在の急激な温暖化の説明にはならないし、温暖化対策を止める理由にもならないが、正しい情報を含んでいる。そして、今氷河期にあることが本当であるからこそ現在の急激な温暖化が危険だともいえるのである。一万年前まで続いた氷期がなぜ起こって、どうして今間氷期にあるのかという説明をしておく。

・この数千万年地球の平均気温は低下する傾向にあり、特にこの十数万年寒い時期が続いている。その気温の変化をもたらしたのが、大陸の移動であるというのが通説になっている。
 南極大陸は、それまで南米大陸と地続きであり、赤道付近で作られる暖かい海水が南米大陸沿いに南極大陸まで届いていた。それで、南極は現在よりもずっと温暖で緑の大陸だったと考えられている。大陸移動によって、南極大陸が南米大陸と切り離されると南極大陸の周囲を回り続ける冷たい海流(南極環海流)が生じ、それ以降南極大陸は氷の大陸となった。太陽の光が氷によって宇宙に跳ね返されるようになると(アルベドが上がったという)地球全体の温度を引き下げる効果をもつ。

・そしてこの十数万年の特に寒い時期をもたらしたのが、北極海の形状だと言われている。北極には陸がなく、ユーラシア大陸、グリーンランド、北アメリカ大陸に囲まれた北極海が存在する。ふつう海はどんなに寒くなっても冷たい水が海の下のほうに沈み、表面に氷が張らない。北極海は周辺を陸に囲まれているため、各大陸から流れ込んでくる河川水が海の上に膜状に存在し、それが凍って北極海を氷の海にしていたのだ。北極海の周辺の地形が現在のような特殊な地形になったから北極海に氷が張り、周辺も含めて氷の世界となり、地球の温度をさらに下げ、氷河期をもたらしたと考えられている。そして、現在が氷河期であるがために、海底などには数千万年かかって堆積した大量のメタンハイドレートが存在し、温暖化がメタンハイドレートの崩壊につながる可能性を高めている。

・一万年前から始まった現在の間氷期は、地球の軌道や傾きの変化による日射量の増加によるものという説が強く、日射量が地球の気温の決定要素であることは間違いないが、その変化のスピードは、数千年単位のものであり、現在のスピードの温暖化をもたらしたのが日射量の変化でないことはすでに述べたとおりである。

このように地球温暖化のメカニズムについては、疑問の余地がないまでに説明されている。
そして、地球温暖化の進行と、未来予測について、IPCCという政府間機関が人類の知恵と力を尽くして報告書を作成している。

気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、略称:IPCC)は、国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構である。学術的な機関であり、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それが無い場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供している。数年おきに発行される「評価報告書」(Assessment Report)は地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策に強い影響を与えつつある。
国際連合環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)と国際連合専門機関にあたる世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)が1988年に共同で設立。
気候変化に関する科学的な判断基準の提供を目的としており、地球温暖化に関する科学的知見の集約と評価が主要な業務である[1]。数年おきに地球温暖化に関する「評価報告書」(Assessment Report)を発行するほか、特定のテーマについて特別報告(Special Report)、技術報告書(Technical Paper)、方法論報告書(Methodology Report)などを発行している[2][3]
本来は、世界気象機関(WMO)の一機関であり、国際連合の気候変動枠組条約とは直接関係のない組織であったが、条約の交渉に同組織がまとめた報告書が活用されたこと、また、条約の実施にあたり科学的調査を行う専門機関の設立が遅れたことから、IPCCが当面の作業を代行することとなり現在に至っている。IPCC自体が各国への政策提言等を行うことはないが、国際的な地球温暖化問題への対応策を科学的に裏付ける組織として、間接的に大きな影響力を持つ。アル・ゴアとともに2007年ノーベル平和賞を受賞。
2013年発表されたIPCC第五次報告書における主なポイント

・気候システムの温暖化には疑う余地がない。1880年から2012年までに0.85度上昇。
・人間の影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い。
・1998年から2012年の期間における気温上昇は大きくないが、これは太陽活動が弱かったこと、火山噴火、海中への熱移動が寄与している可能性がある。
・1971年から2010年の間に蓄積されたエネルギーの90%は海中に蓄積されている。
・海洋は排出された人為起源二酸化炭素の約30%を吸収し、海洋酸性化を引き起こしている。
・二酸化炭素濃度は化石資源からの排出と土地利用の変化により工業化以前より40%増加した。
・温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の大気中濃度は1750年以降すべて増加している。特にメタンの濃度は工業化前の2.5倍になっている。
・ここまま何もしなかったならば、地球の平均気温は現在よりも最大4.8℃(工業化以前よりも6℃弱)上昇するが、最大限の努力をすると、最も楽観的な予測で現在よりも0.3℃の上昇にとどめることができる可能性がある。
・海水面の上昇は、最大の努力をした場合で最低0.26メートル、何もしなかった場合の
 最大は0.82メートルになると予測される。
・二酸化炭素の累積総排出量と世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある。
・2011年までに515GtCの二酸化炭素がすでに排出され、半分の確率で2100年までの気温上昇を2度未満に抑えようとする場合の今後の排出可能量は約790GtCである。
・2100年までの気温上昇を2度未満に抑えようとする場合、2100年の温室効果ガス濃度は訳450ppmであり、2050年の温室効果ガス排出量は2010年比40~70%減、2100年にはほぼゼロ~それ以下にする必要がある。
・気温上昇を2度未満に抑制するためには、できるだけはやく温室効果ガス排出量を大幅に削減することが必要で、2030年までの削減努力が決定的に重要であり、それを怠ると2℃未満達成は困難さを増す。
・2℃未満への道は困難ではあるが、望みがないわけではない。
IPCCが確からしいと評価した点を、個人の科学者が否定することは事実上不可能。
過去には、「地球温暖化についてはまだ不確かなところがあるが、対策に取り組んでもエネルギー効率の改善などにつながり、マイナスはないから、ひとまず取り組もう」と考えられたこともあったが、現在は、人知の限りを尽くして地球温暖化について調べられ、不確実性のパーセンテージを含めて「確かな」情報をもとに、地球温暖化に関する世界の政治が行われていったことを理解してほしい。


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