革新的なエネルギーシステム・地球温暖化対策

 私が今からお話しする新システムは、大きく分けて四つあります。四つのシステムはどれも 気宇壮大で面白いので、お話として聞いていただいた後で、それが、我々の今後の生活、自 治体における現実の政策とどのようにつながっていくのかを皆様と一緒に考えたいと思い ます。

●地球パワーネットワーク
 2011年にソフトバンクの孫社長が「アジアグリッド構想」を打ち出し注目されましたが、 世界の5大陸を送電線でつなごうというアイデア自体は1980年代からあったようです。
 バックミンスター・フラー氏の描いたGlobal Energy Grid の図を見ていただきたいと 思います。
http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2011/10/805global-energ-78e2.html
五大陸が送電網で結ばれています。北極海を中心に見ると、北アメリカ大陸とアジア・ヨー ロッパがそんなに離れているわけではないことがご理解いただけるでしょう。この送電網 は、1980年代には数百キロしか送電できる技術がなかったので現実味がなかったのですが、 東北大学・首都大学東京で学長をされた西沢潤一先生の開発されたパワー半導体(サイリス タ等 直流→交流のロス率を1%に)などの新技術で、高圧直流送電が可能になり、一万キ ロメートルの送電ができるようになって、現実的な構想になってきました。西澤潤一氏は直
流電流ネットワークを地球表面に張り巡らすプロジェクトの提唱により、2000年にIEEEのエジソンメダルを受賞されています。現在では高圧直流送電がスカンジナビア半島とデ ンマークを結び、アフリカ大陸から太陽光発電の電気をヨーロッパに運んでいますが、中国 の送電網の発展がものすごいです。

 多くの水力資源、再エネ発電所が西部にあり、電力の需要の70%が東部の沿岸部や中部地域に存在する中国では、長距離・大容量の送電インフラが求められていました。そこで、2009年から10年にかけて、世界初の交流100万ボルトUHV試験線と、世界初・世界最長の±80万ボルト直流UHV送電線が運転開始され、運転経験を蓄積しました。自信を深めた国家電網公司は、12次五か年計画中(2011~2015)7兆円以上を投入して「三縦三横一環」の形状の交流の基幹送電線と11件のUHV直流送電線の建設プロジェクトを推し進め、全長4万キロの力強い送電ネットワークを完成しています。UHVの技術はロシア・アメリカ・スイス・日本で進んでおり、日本の東京電力と電力中央研究所は、中国に対しUHV送電関係の技術コンサルを行いましたが、中国は設備の国産化を進め、ある交流プロジェクトでは76%以上の設備が中国国産メーカーにより供給されました。中国の国家電網公司はキャッシュフローと技術力を手に入れ、Fortuneの世界第8位の巨大企業となり、フィリピンやブラジルで、送電会社の買収や送電網経営権の獲得をしています。

 もう一つトピックスがあります。ベーリング海峡横断トンネル建設着手のニュースです。
ロシア政府と経済界は、アメリカとロシアを結ぶ世界最長の海底トンネル実現に向け動き出しました。アメリカとカナダと共同でベーリング海峡の海底にパイプラインや鉄道による資源輸送の大動脈を建設し、高速道路や電力線、光ファイバーで結ぼうとするもので、650億ドルの投資を、米・露がそれぞれ25%を出資、残りを民間企業や国際機関から出資を募る形で行おうとしています。はやくも日本、韓国、中国の企業がトンネル建設工事への参加希望を表明しています。工期は15年程度とのこと。このように現実がどんどん進んでいますから、世界中の主要電力供給地と需要地がUHV送電線で結ばれる日は近いと思います。

 そうなると、もちろん電力は再生可能エネルギーで供給されるわけですが、個別の発電サイトの出力量の変動は、この送電線で調整されることになり、世界各地の蓄電能力も比較的小さくて済むようになるでしょう。北極から三方向にパワーネットワークが張り出し、その先に太陽光発電所や風力発電所があるわけですから、世界全体の発電量は安定するのです。
 今後の日本国内の電力システムを考える際にも、この国際的な電力網を無視することはできなくなると思われます。太陽光発電のコストは最終的に、使用している土地の価値に比例してくると思われます。そのため、砂漠地帯などをもつ国は、とても安い電力を入手することができ、中国の固定価格買取制度における太陽光発電の買取価格は、現在でも1kWhあたり10円程度ですから、将来的にはもっと安くなると思われます。このため日本も、いま原発などで確保しようとしている(ベース電源)にあたる部分を、海外の電力線と連結して購入することも可能になるでしょう。電力調整のために1kWhあたり40円近くもする揚水発電も利用しなくてはならない原発と比較して経済的にメリットが出てくる可能性があります。私のいうメリットとは、日本の産業界、経済界全体に対するメリットです。

●ベーリング海峡ダム
 先ほど出てきたベーリング海峡横断トンネルとこのベーリング海峡ダムは全く目的を異にするプロジェクトです。プロジェクトの規模としてもベーリング海峡ダムのほうがより大きなもの、最低20兆円はかかるプロジェクトとなります。ベーリング海峡ダムの目的は、前回の講義でお話しした、現在急速に進んでいる北極圏の温暖化を止めるため、太平洋の暖かい海水の北極海への流れ込みを止めようというものです。深刻な北極海の現状について、私が海外でお話しするために作ったパワーポイントを見ながら、少しお話しします。
 IPCCの第五次報告書は、北極海の海氷の減少について大きなスペースをとって警告しています。このままでは、最短で2030年代には夏季の北極海海氷はなくなるのではないかと予測しています。先日お話ししたように、北極海の氷は北極海に流れ込む河川由来の淡水が凍ってできたもので、北極海の特殊な海水の層状構造によって支えられています。ちょっとした温度の変化で簡単になくなってしまうものなのです。
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、この海氷の減少について次のように説明しています。
1997年のエルニーニョを契機として、太平洋からベーリング海峡を通って北極海に流れ込む海水の温度が上昇し、それにともなって、北極海の太平洋側の海氷の急速な減少が生じた。海氷で閉ざされた海域に生じた巨大な開口部(ポリニア)の海中には、太平洋由来の高温の海水が滞留していた。また、沿岸の海氷が減少したため、摩擦が減って海氷が動きやすくなり、北極海全域にわたる大規模な海氷の運動が生じ、これが太平洋からの海水の流入を加速している。さらに、北極海内部に広がった脆い氷が早期に融解したため、海面が太陽光を吸収して温度が上昇し、さらに海氷減少を加速している。北極海から大西洋に放出される海氷も増加している。
東京大学気候システム研究センターは、北極海から海氷が消えることが地球気温に与える影響のシミュレーションを行いました。同センターの阿部彩子博士は、15年で北極圏の気温が15℃上昇、地球全体の気温も2℃上昇すると報告しています。
このベーリング海峡ダムをつくることが、大西洋側からの暖かい海水を北極海に呼び込み逆に北極海の温度を上げる可能性があるという論文もあります。しかしながら、夏季の北極海にいったん氷を取り戻すことの冷却効果は非常に大きい可能性があると思っており、また、海面が低くベーリング海峡が閉ざされていた時代、地球は寒く氷河期だった、という歴史上の事実もあります。早急に、ベーリング海峡ダムの、海流、塩熱循環、海氷面積、気温、生態系などへの影響のシミュレーションと、ベーリング海峡付近の地形、地質調査を行わなくてはならないと思います。ベーリング海峡付近は年に数カ月しか工事を行うことのできない気候の厳しい場所ですが、幅85km深さは最深部で60mと、工事としては人類にとって全く手に負えないものではありません。これまでに経験したことのない難工事となりますが、北極海の海氷の減少を放置する危険を鑑みるとき、これは人類が乗り越えなくてはならない試練であると思います。いま、ベーリング海峡に向かって鉄道が引かれているということは、このベーリング海峡ダムの建設用資材を運ぶためには非常に好都合なことです。
 世界パワーネットワークや、このベーリング海峡ダムを作るための資金については後で申し上げます。

●二酸化炭素除去装置
 地球温暖化緩和に直接つながる、大気中の二酸化炭素を吸収してどこかに保存をしようという試みは、さまざまに試みられましたが、これまで大きく成功したものは存在しません。一番大規模に取り組まれたのが、CCS(Carbon capture and storage system)で、石炭火力発電所の排気ガスなどから二酸化炭素を取り出し、地下や海底に貯蔵しようという試みでした。エネルギー基本計画の項で述べたように、この10年間の商用化の試みを経て、成功したものは存在しません。そのほかに、人工光合成や、人工石灰岩など、さまざまな試みがありますが、いまのところ天然の光合成システムを超える、二酸化炭素固定システムは発明されていません。しかしながら、天然の光合成によって作られた生物体は、簡単に死んで朽ち果て、微生物の呼吸により二酸化炭素に戻ってしまうという問題がありました。植物体から炭を作るということは、過去から行われてきましたが、そう大量につくれるものでもなく、また、出来上がった炭をどこで保管するのかという問題もあります。

 そこで、私が現在のところ、一番実現可能性が高いと考えている技術が、BHCSという水熱科学技術を使った、有機物の変換システムです。簡単に言うと、このシステムは、廃棄物を高温高圧の水の中で、アミノ酸とオリゴ糖の共重合物にまで分解するもので、大きなエネルギーを使わず、廃棄物の中の80%以上の炭素を残したまま、茶色の粉末に変えてくれます。
この茶色の粉末は、水に沈み、水中で長期間安定する性質があります。

 すなわち、大気中の二酸化炭素を植物に吸収させ、その植物由来の物質が廃棄物になったとき、それをBHCSを使って分解し、海の底に沈めておけば、千年以上の単位で炭素を海中・海底に固定することができるというものです。

 確かに、深海の生態系への影響など、やってみなくてはわからない部分もあります。しかし、大気中の二酸化炭素が一番悪さをするわけですから、これを当面海中に移しておこうという考え方は合理的だと思います。BHCSの生成物は、生体に悪影響を与えるものではないということが確認されています。BHCSを使った二酸化炭素固定について、早急に実験プラントをつくり、実際に海に投入して影響を確認すべきだと思います。

 実はこのBHCSを使った下水汚泥処理施設はいったん完成していたのですが、どこかの企業グループの圧力で閉鎖されてしまったという歴史があります。地球温暖化対策のために、どんなことがあっても実用化しなくてはならない技術だと思いますので、皆様のお力を貸していただきたいと思います。実は、私が吹田市の市長選に出ようとおもった理由の一つに、吹田市の下水汚泥処理施設にこの技術を使ったプラントをつくり、技術の実証をしたいということがありました。この意味で落選したことはいまでもとても残念です。

 この技術は、先ほど述べた、世界パワーネットワークや、ベーリング海峡ダムの話に比べれば小さなスケールの話だと思われるかもしれませんが、この技術を、発展途上国を含め世界中の廃棄物処理につかうと、人類による二酸化炭素排出を20%30%という割合で減少させることができます。さらには発展途上国における廃棄物処理場の問題も解決することができるかもしれません。そしてこれは、直接に地球環境を守るための技術ですが、現在の経済システムではこのような技術にはだれもお金をださないのです。政府あるいは、別の機関からお金が出るようにしなくてはなりません。出るようになると、普及が一挙に進む可能性もあります。

 先ほど述べた二つの大きな技術も含め、地球環境を守るための技術の導入にはお金がかかります。その資金を作り出すのが、最後に述べる「世界みどり公社」なのです。

●世界みどり公社
 再生可能エネルギーへの転換に舵を切ったばかりの世界は、原油価格の下落の影響もあって、株式市場だけではなく、もっと深いところで経済構造の変動が起こるのではないかという疑心暗鬼の中にあります。しかし、世界が再生可能エネルギーへの転換をしたからといって、世界の経済や社会システムが大きく崩れることはありません。それどころか、より幅広い地域に、多くの人々に、エネルギーが供給できる、豊かな世界が生まれるはずです。地球温暖化によって、できるだけ現在の社会が大きなダメージを受けないようにするため、影響を受ける人々に気遣いながら最低限の社会変革で問題を解決する手法が、この再生可能エネルギーへの転換なのですから。

 しかしながら、原油価格が現在のレベルまで低下することは、化石エネルギーから再生エネルギーへの転換のためにも、そしてデフレが世界経済のために好ましいことでないことからも適切ではありません。しかしながら、OPECや他の石油産出国が、協調して減産をして価格を吊り上げるままにしておくようなことは、資金の流れの面で、再生可能エネルギー供給システムをつくらなくてはならない世界にとって全く好ましいことではありません。そこで、私が過去から申し上げてきた世界みどり公社を作ることが必要なのではないかと考えるのです。
 世界みどり公社とは、国連のもと、地球温暖化を防止するため、世界の化石資源(石油・石炭・天然ガス等)関連企業を統合した、化石資源の専売公社で、化石資源の使用に伴って大気中に排出される二酸化炭素を削減するために、化石資源の販売価格を調整し、その専売利益を温暖化の緩和・適用に必要なさまざまなプロジェクトに供給するものです。
 世界みどり公社は次の機能を持ちます

  1. 販売価格の管理を行うために必要な範囲で、公社は各国と協働し、適切な補償の下に化石資源採掘、精製、燃料化、原材料化及び備蓄に関する組織を取得します。
  2. 化石資源の供給において、公社は発展途上国における国民の生存及び社会維持のために必要とする使用量に関して、優先して適切な価格で供給する義務を負います。
  3. 各国の省エネルギー、エネルギー転換、産業転換に対し、また、国際機関の行う、さまざまな地球温暖化防止のためのプロジェクトに対して、公社は、資金を供与します。また地球温暖化の被害の救済などにも資金を供給します。
  4. 公社は、3の目的のため、一定の利益を上乗せし化石資源の価格を決定し、全世界一律に管理します

 世界みどり公社は、人道性、衡平性、経済性、共通性、浸透性、効率性の原則の下、上記の機能を果たす、社会的共通資本となります。
 世界みどり公社は、単に資金を集めるシステムではありません。公社は世界の地球温暖化を止めようとする意思を体現したものであり、それに世界中の人々が資金を供給することによって実行力を与えるものなのです。近年地球炭素税について真剣に検討されるようになりましたが、地球炭素税を導入する場合、その時に公社が必要とする量の資金を調達するために、税率を何度も変更しなくてはなりません。190を超える国々の国会で、何度も地球炭素税の税率について議決することは事実上不可能です。また、国境を越えて資金を動かすことが非常に難しくなります。そこで、制度として、税よりも専売制という手法のほうが合理的だと考えられます。また、排出権取引制度は、国や国際機関が新しく行うプロジェクトに必要な資金を生み出すためには使いにくい手法です。
 国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに温暖化ガスの排出を50%削減するためには、エネルギー分野だけで45兆米ドルの投資を2050年までに行わなくてはならないと試算しています。世界みどり公社が必要な資金が年間100兆円とすると、二酸化炭素を排出した者の負担は、炭素使用量1トン当たり約1万円(一バレル20ドル程度)程度ですみます。
 世界がつくりだすのが、世界みどり公社のようなシステムなのか、または全く違った制度なのか今はわかりません。しかしながら、発展途上国において再生可能エネルギーインフラを整えるためにも、あるいは地球温暖化で生じてくるさまざまな被害を防止し、あるいは救済するためにも、似たような機能をもつ何らかの制度が生まれることが必要だと考えます。

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