再生可能エネルギー革命以降の地域経済と市民活動について

 再生可能エネルギーの導入によって我々の周りで当面変わってくるのは、我々の使う、家電や、車です。より省エネのもの、蓄電能力のある製品、EVなどが導入されますので、我々としても積極的に性能の良いものを選ぶ必要があります。太陽光発電装置などの自宅への取り付けも進むと思いますが、ほとんどの方にとって再エネだけの生活をするのは非常に難しいので、どこかの電力会社から電力を購入することは続きます。今後電力自由化がさらに進んで、再生可能エネルギーに優しくなれば、皆さんもぜひ再生可能エネルギーを販売している会社から電力を購入してください。よろしくお願いします。そして長期的に見ると、家庭でガスや灯油を使うことはなくなるでしょう。

 地域がどう変わるかですが、太陽光発電や風力発電の基地ができた地域は、工事量などが増え、若干土地の賃借料程度の収入が入って、少しはにぎわうことになりますが、将来は再生エネルギー買取価格も下がり、さらに先には海外からの電力も入ってくるので、再生可能エネルギーだけで地域を振興しようとするのは、無理があると思います。それよりも今起こっている革命で今後も続きそうなのは、海外からの観光客の流入です。これを自分の住む地域をより美しく、より魅力的にする努力につなげていけば、今後長きにわたって地域を豊かにすることになると思います。そちらのほうが重要でしょう。

 再生可能エネルギーのなかで、日本の地方の生活により大きく関わってくる可能性があると思われているのが、バイオマスです。バイオマスを使った電力と排熱で地域にエネルギーを供給しようという取り組みが日本の各地で行われています。しかしながら、すでに蒸気などによる熱供給システムの発達していたヨーロッパで普及したようには、熱供給の文化とシステムのない日本では簡単にいかないと思います。バイオマス発電の価格は1kWhあたり40円くらいで固定価格買取制度が運用されていますが、これで、バイオマス発電が成り立つのは、プラントが廃棄物処理施設として、別のところから収入があるからで、発電だけのコストでいえば、この倍はかかるでしょう。バイオマス発電は、バイオマスを大量に集めてくるところが一番大変で、そこにコストがかかるため非常に不効率で、この部分の効率を上げることは不可能なのです。また、せっかくの炭素の集積としての廃棄物はBHCSによって、分解され海に沈められるべきでしょう。

 日本の林業で可能性があるのは、間伐材や製材くずなどをBHCSの原料につかい、炭素固定費を政府から受け取ることだと思います。この部分を林業への補助金として受け取って、そしで従前からやってきたこと、国産材を使ったデザイン性、居住性のよい住宅を作ることに、より注力していくことだと思います。そして林業を幅広くとらえ、一部は照葉樹に切り替え、ドングリを使って豚を飼うなど、これまでと違った森林利用にもトライしてみたらいかがでしょうか?イタリアではドングリを食べさせた豚で、有名な食材(パルマ・プロシュートなど)が作られています。そして、再生可能エネルギーの利用で、農業にもさまざまな可能性が生まれると思います。再生可能エネルギーの自家発電を使えば、エネルギーコストを抑えられますから、日本の地方でコスト競争力のある農業がこれからも新たに生まれてくるかもしれません。この部分についても、今日ご参加の皆様の意見をお伺いしたいと思います。

最後に

 3月4日の読売新聞朝刊に、政府がこれまで述べたように非常に問題のある「地球温暖化対策計画」をまとめた、という記事がありました。同日の国際面には、中国が原子力発電を進めているという記事も載っています。二つ目の記事などは、中国の原発以外のエネルギー政策に全く触れず非常に一面的な記事だと思いました。まだこれから、化石資源関連産業や原子力産業の政治力と、再生可能エネルギーを進める立場の人たちが闘うのか、という暗い気持ちで、この記事を読まれた方もいるかもしれません。しかしながら、私はそうは思いません。なぜなら、世界においては、このようなエネルギーグループ間の調整はもう終わっている、と感じるからです。COP21を思い出してください。あそこには、あの化石資源に縛られていたアメリカが、原子力発電を進めてきたフランスが、化石資源で国をなりたたせているロシアが、中国がいて、そして世界中200か国の代表がいて、パリ協定に全会一致で合意したのですから。だから、日本の各エネルギー産業の方々も、世界のこの情勢を受け入れるしかないのです。しかし、もちろん、この移行の過程において、日本の企業や労働者、生活者に、痛みが発生しないよう、できる限りの手当てを、日本政府は行わなくてはなりませんが、産業構造の転換は、日本の非常に得意とするところです。きっと、日本の政府と優れた官僚の皆さん、そして産業界はこの移行を上手にやりとげると思います。

 さて、これからしばらくは市民の出番です。市民の持つ、この世界を、何とかして救いたいという気持ち、皆さんの心の中に眠っていた、言いたくても言えなかったこの気持ちを開放する時が来ました。今こそ言いましょう。「地球温暖化を止めるために、再生可能エネルギー社会をつくろう」と。そして言ってください。「自分たちの力でエネルギー転換をできない政治家たちは、政治の世界から退出しろ」と。そして、言って下さい。「再生可能エネルギー社会をもたらす政治家よ、出てこい」と。

 私は、いまこそ、政治的転換を行うべきだと思います。そしてそれが行われた日本社会には、活力と、喜びが戻ってきます。皆が、自分たちの子供たちの未来を明るくするために、何をするべきかを知るのです。そして毎日、自分の子供たちに明るい未来を残すために働けるのです。人間にとって、これほど嬉しいことがあるでしょうか。日本の社会は、きっと輝きと、エネルギーを取り戻すでしょう。あの1970年代のように。

 日本の産業界の皆さん。皆さんが力をあわせて、不可能のようにも見える、しかし達成のできる、やりがいのある素晴らしい仕事と向き合う時がやってきました。あの日本万国博覧会、大阪万博をやり遂げた、日本人の子孫として、この素晴らしい挑戦に挑んでください。

 これで、本日の私のお話を終わります。みなさまご清聴ありがとうございました。

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