COP21を成功に導いた要因

再生可能エネルギー産業が成長
丁寧に説明すると、それだけで終わってしまうので、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏の作成した2015年自然エネルギー白書に基づき、簡単に話します。
 15年前には世界全体で2000万kW弱だった風力発電は、2014年だけで5000万kW増え、累積ではついに原発の発電容量と肩を並べました。世界全体で140万kWだった太陽光発電は、昨年だけで4000万kW 増え、累積で原発の発電容量のちょうど半分に達し、3年後には肩を並べる見通しです。
 昨年、世界で新設された電源の6割以上が自然エネルギーで、その投資額も世界全体で約36兆円と記録を更新しました。欧州は、2030年までに自然エネルギー発電を45%に倍増する目標をたてるなど、各国とも自然エネルギーを地球温暖化対策はもちろん、エネルギー供給としても、産業経済としても、地域活性化としても、押しも押されもしない中心的な政策と位置付けています。
 国別に見ると、太陽光の年間導入量で世界1位となった中国は、前年比3割増しの810億ドルの市場規模となり、米国が363億ドルで続いており、日本を含む上位3か国で世界全体の自然エネルギー市場の訳56%を占めています。世界164か国が自然エネルギーの導入目標を決め、少なくとも145か国が支援政策を導入しています。それが世界各国で太陽光、風力をはじめ自然エネルギーの積極的な導入を促し、2014年には、過去最高記録の年間導入量となりました。
 近年の世界のGDPは平均3%の成長だったのですが、それにも関わらず、2014年の二酸化炭素の排出量は2013年の水準から変わらず、二酸化炭素排出量の増加を伴わず世界経済が成長したのは、過去40年間で初めてのことでした。こうした経済成長と二酸化炭素排出量の「デカップリング」(切り離し)は画期的なことであり、中国での自然エネルギー利用の急拡大とともに、OECD諸国がエネルギー効率化と自然エネルギーの利用拡大を同時に進めていることが主な要因と考えられています。

 ちなみに原子力産業について簡単に述べておきますと、ドイツの電力最大手エーオンは、原子力・火力発電など3事業を本体から分離し、本体は配送電や再生可能エネルギーに集中することを決めました。ドイツでは豊富な電力メニューがあり、自分の好きなメニューをネットで選択してすぐ切り替えることができます。原発や火力は敬遠されるので、市場の要望に応えるべく、エーオンは再生可能エネルギーへのシフトを決めました。

 原子力をエネルギー政策の中心にすえてきたフランスでも、原子力産業複合企業のアレバは原発の新型炉建設が難航し、原子炉事業を売却することになりました。
 アメリカでは大手企業が再生可能エネルギーを中心に調達すると発表しています。グーグル、フェースブック、アップル等々です。アメリカではすでに市場価格でも再生可能エネルギーはグリッドパリティーを達成し、テキサスで導入された太陽光発電のコストは4c/kwhで石炭火力よりも安いのです。風力発電は、太陽光発電よりも安価なので、すでに再生可能エネルギーはもっとも安価な電源になっています。今欧州で原子力維持に熱心なのは、イギリスの保守党と、いくつかの東欧の政権です。

そして140か国とEUが加盟する国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が2011年に発足し、Remap2030という報告書を出していますがその中には今後の再生可能エネルギーの成長についてこのように書かれています。

 

中国の国家改革発展委員会の下にある能源研(エネルギー研究所)は再生可能エネルギー高導入シナリオを発表し、2050年に最終エネルギー消費の66%を非化石燃料化、再エネ60%。発電の91%を非化石燃料化、再エネ86%としています。

インド、モディ首相と、フランス・オランド大統領の呼びかけで120か国以上によるソーラー・アライアンスと呼ばれる組織ができ、2030年までに太陽光の大規模導入に必要とされる1兆米ドルの投資の動員を目指すとしています。

 

金融界の後押しがあったこと
IRENAの持続可能エネルギーに関するファイナンスについての報告書では、藩基文事務総長の序文に引き続き、世界銀行総裁ジム・ヨン・キム博士が次のように書かれています。

より持続可能な未来を作り上げると同時に近代的なエネルギーサービスを世界の貧困に苦しむ人々に届けることは我々の時代の枢要な挑戦です。世界どこでもエネルギーにアクセスできること、世界のエネルギーミックスの中で再生可能エネルギーを倍にすること、そしてエネルギー効率の改善幅を二倍にすること、この三つのSE4Allの目標を2030年までに達成するためには、クリーンエネルギー技術分野におけるイノベーションとより大きな投資を必要とします。

公的な開発補助と、公的なファイナンシングは、この努力において、特に発展途上国のエネルギーアクセスを向上させるための要となります。しかしながら、世界的なニーズは公的な資金が供給できる量をはるかに超えています。すべての種類の民間資金と投資を呼び込むために公的資金を用いることは我々の責務であります。究極的には民間部門が我々のエネルギー目標を達成するための最重要プレーヤーとなるでしょう。

この三つの目標を達成するためには、年間のクリーンエネルギーに関する投資を、現在の4千億ドルから1兆ドル超にまで増加させなくてはなりません。このレポートはいくつかの有望な解決方法を指し示しています。それは、グリーンボンドの発行、保険商品やその他の商品を使った、リスク回避のための投資、そして小規模のエネルギー投資を束ね、構造化していくことです。同時に各国は持続可能なエネルギーについての政策を強化し、貿易障壁を取り払い、公営企業の効率を改善し、化石燃料に対する補助金を取り除くことにより、投資環境を改善しなくてはなりません。

そしてこの報告書が、世界銀行、バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ブラジルナショナル開発銀行、アジア開発銀行、ブラジルエネルギー省、カーボンワールーム、ヨーロッパ投資銀行、地球環境ファシリティー、韓国Eximbankなどの協力のもとで作成され、世界中の銀行や投資家に向けて発信されていることが重要です。金融界が動いたということでしょうか。

金融界の動きでもう一つ注目すべきなのは、「ダイベストメント」という動きです。ダイベストメントとは、投資の撤収という意味で、いままで化石燃料会社に投資していた組織が、この分野から手を引こうという動きのことです。かつては、学生運動から発生した大学運用資金レベルであったのが、最近は大きな投資銀行や銀行がダイベストメントに賛同しています。さらにフランスでは、「エネルギー転換とグリーン成長」といおう法律ができ、フランス企業は、経営計画や投資計画が、国、地域、世界の温暖化対策目標とどれだけ整合性を持つかを開示しなくてはならなくなっています。

アメリカ・世界における世論の高まり
COP21の前、昨年9月末に国連総会に付随して行われたサミットでローマ法王は、世界の指導者たちに対し、地球温暖化と闘いなさい、COP21を成功させなさいというメッセージを述べました。また、国連総会に付随して、オバマ大統領と習近平国会主席との会談が行われ、米中が地球温暖化対策で協力することが合意されました。また、近年のアメリカでの大変な温暖化による被害もあり、アメリカの市民は温暖化対策を進めることに対し、大変積極的で、2014年に行われたアースパレードではニューヨーク・マンハッタンの6番街を60万人の市民が埋め尽くしました。そしてもちろん前年に出たIPCCの第五次報告書の強い警告もあり、世界の国々は、COP21で協議される予定のパリ協定について協力的でした。
事前に159か国とEU(28か国)の187か国が国別の削減目標、削減行動を提出し、これは締約国の95%、締約国の排出量の98.6%に及びます。
2015年11月末、COP21がどのような雰囲気のもと開催されたかを如実に物語るのが会議冒頭におけるオバマ大統領の演説です。お読みください。
http://yamaguchikatsuya.net/cop21remarks.html
そしてこのような強いムーブメントの中、産油国などの資源保有国は、特に強い異議を唱えることなく、静かにしていました。このCOP21は、地球温暖化という、世界の崩壊につながる大きな脅威に対して、人間が初めて小さな勝利を収めた場でした。参加した交渉担当者が感動して、涙を流しながら抱き合ったというエピソードは、このCOP21の決定が、参加各国にとってどれだけエモーショナルに大切なものであるかを示しています。人類が子供たち、未来世代への脅威に対して一致協力することができたのです。これは人類の新しい進化ともいえる、大きな前進だったのではないでしょうか。

安倍政権の元、地球温暖化の脅威に対して正面から向き合ってこなかった日本は、この革命ともいえる決定において感動と興奮を共有することができませんでした。しかし、安心してください。この人類の進歩は、日本の再生可能エネルギーやエネルギー効率化に関する技術抜きでは起こりませんでしたし、今後も進めていくことは不可能なのですから。ただし、日本人がしっかり認識しておかなくてはいけないのは、世界がこれほどの熱意をもって作り上げた方針に対し、日本は、日本の産業界の利益を守るために無視したり、反抗したりすることはできないということです。

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