日本のエネルギーについて

 前回は、地球温暖化の脅威について、それから、世界の国々と市民社会がCOP21において化石エネルギーから再生可能エネルギーへの全面転換を固く決意したということをお話しさせていただきました。

 今日は、日本のエネルギー計画、地球温暖化対策の現状からお話しをはじめ、世界で始まっている地球規模のエネルギーシステム革命、地球温暖化対策に進んでいきたいと思います。安倍政権における日本のエネルギー・環境政策は、現在のエネルギー供給システムを守ることを第一にしています。このため、洞爺湖サミットとCOP21などで決まった2050年までの化石エネルギーから再生可能エネルギーへの全面転換を日本が真に実現しようとする場合、これまでつくられた「地球温暖化対策基本計画」そしてその前提となる「エネルギー基本計画」などを根本的に作り変えなくてはなりません。現在の政府はCOP21の合意を経て現在の「地球温暖化対策基本計画」を見直すとしていますが、COP21以前とエネルギーミックスについての考え方を変えないと明言しているので、大胆な計画の変更は望めないでしょう。

 今日は、これらの計画等の何が誤っているかをお話しいたしますが、そこから先に話しだすと、未来のエネルギーシステムや温暖化対策の全体像が見えなくなるので、まず日本の洞爺湖サミット時からの国際公約であり、今回地球温暖化対策基本計画に書き込まれる予定の、2050年における日本の温室効果ガス排出80%減を前提とし、その社会が持つべきエネルギー・産業システムを、現状と比較しつつ簡単に概観してから、各計画の問題点を指摘していきたいと思います。

 まず現在の日本の一次エネルギーの構成を見ましょう。資源エネルギー庁の、我が国のエネルギーバランス・フロー概要211-1-2(2011年度 単位1015J)です。
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2013html/2-1-1.html 

 一次エネルギーの国内供給では、原子力発電が885(4%)、水力・地熱・新エネが1566(7.4%)、天然ガスが4926(23%)、石油が9116(43%)、石炭が4654(22%)合計21,147あります。これがエネルギー転換部門を経るうちに、電力の発電損失や原油の精製などを経て6,620(31%)減少し、最終エネルギー消費は14,527(69%)になります。

 エネルギー転換部門について見てみます。事業用発電へのエネルギー投入が7,919自家用発電への投入が1,203で合計9,122(一次エネルギー合計の43%)発電損失が5,178(発電投入エネルギーの57%)あります。都市ガスは1,760(一次エネルギーの8.3%)、家庭用、業務用、産業用と幅広く使われています。精製用原油等の使用が7,504(一次エネルギーの35%)でガスの四倍以上あり、灯油、ガソリン、軽油、重油、ナフサとして使われています。石炭は半分が発電用として使われ、残りの半分は蒸気発生用途、原料炭(コークスなど)として使われ、発電用途以外が1,930と一次エネルギーの約9%を占めています。

 次に、最終エネルギー消費を見ます。民生家庭(2,063 最終消費の14%)、民生業務(2,851 最終消費の20%)などの最終エネルギー消費の内訳は、民生家庭の電力が1,045に対し、都市ガス、石油製品の合計が1,001、民生業務(ビル、デパートなど)の電力が1,247に対し、都市ガス、石油製品の合計が1,560にもなり、調理・暖房・車両用途の化石燃料直接消費がかなり多い(民生の最終エネルギー消費の51%)ことが伺われます。
 最終消費の、運輸旅客、運輸貨物を見ると、合計が3,389で、最終消費の23%を占めています。使用しているのは、ガソリン、軽油、重油、ジェット燃料などで、直接の化石燃料利用がほとんどです。次いで産業部門を見ると、6,224(最終消費の43%)あります。電力が1,005と少なく、都市ガスや石油製品、蒸気、石炭など化石燃料の使用によって成り立っていることがわかります。

 石油には原料用途の使用があり、(この表のどこにそれが表れているのか、それとも含まれていないのか不明)その廃棄物の焼却があると、化石資源の燃料用途の使用はほぼゼロにしなくてはなりません。この表を眺めながら、これからしようとすること、すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄うことの困難さを考えると、唖然としてしまいますが、それを我々はしなくてはならないのです。どこをどうさわると、2050年のエネルギーのバランス・フローが成り立つのでしょうか。

 まず、すべての発電は、再生可能エネルギーで行わなくてはなりません。それから、現在化石資源を用いて行われているすべての民生用・業務用の暖房を電気に切り替えます。そしてすべての交通、運輸も電気自動車に切り替えるのです。産業においても熱利用用途はすべて電気に切り替えます。そして個別の産業で、例えば製鉄における原料を、できるだけコークスなどの化石資源から、電気、あるいは水を電気分解してできた水素に切り替えることが必要となります。廃棄物の処理についても、焼却をやめて、二酸化炭素やメタンの出ない方法に変えるのです。荒唐無稽のように感じられるかもしれませんが、前回お話しした例でいうと、トヨタ自動車が「トヨタ環境チャレンジ2050」において、2050年に工場からのCO2排出をゼロとし、世界で販売する新車の走行時のCO2排出量を10年比で90%削減すると発表していること、中国の国家的なエネルギー研究所が、2050年に最終エネルギー消費の66%を非化石燃料化、発電の91%を非化石燃料化するプランを発表していることなどは、この途方もないチャレンジに真摯に向き合っている姿だと理解ができるのであり、日本の行政もこれに倣う必要があるのです。それがどれほど大変なことであるかは、素人でも想像がつきます。だから、これから2050年まで35年かけてこれを行うのですし、この35年は本当に全力で走り続けなくてはならない35になるのです。

 そして、発電所についてはこれまでの原発や火力発電所を再生可能エネルギー発電所で置き換えればよいという程度ではなく、大幅に増強しなくてはならないことが分かります。民生と運輸、産業の最終消費から現在電力で賄われている部分を差し引くと11,230になりますが、これはすべての発電所で現在発電されている電力量の3倍以上であり、再生可能エネルギー発電所の発電量としては、現在の(石炭発電所などを含めた)すべての発電所の発電量の4倍が必要となるのです。一見不可能に見えますが、太陽光発電と風力発電にはこのエネルギーを供給する潜在能力があります。しかしながら、発電設備の増強のみならず、送電線など送配電設備全般の増強産業設備の電化への対応が必要になります。いま、日本はお金を使う先が見つからない、マイナス金利だとか言って騒いでいますが、それは、この再生可能エネルギーに対する莫大な投資の必要性から目を背けているからであり、これに目を向け、炭素排出や電力消費に適切な価格を付け、それを原資に適切な補助金を用意すると、日本の製造業はプラントメーカーから家電メーカー、自動車メーカーに至るまで沸き立つような景気になります。覚悟一つで、日本社会が大きく変わるのです。

 一方、現在の最終エネルギー消費量が、必ずそのまま将来の電力社会で必要になるわけではありません。ガソリンや軽油を使う車両よりも電気自動車のほうがエネルギー効率はいいのです。これは、車がエンジンで駆動力を得るとき、燃料に含まれているエネルギーのうち20%弱しか推進力にならず、80%以上が熱として損失になるからで、モーターを回す際の熱ロスが10%程度であることを考えると、発電の際の損失を考えても、トータルで電気自動車のほうが2倍近く効率がいいのです。一方、産業用などで、電気を熱に変換して利用する際には現在よりもトータルのエネルギーロスが大きくなるかもしれません。このあたりは専門家に厳密に積み上げてもらわなくてはなりません。

 再生可能エネルギーの中心となる、太陽光発電、風力発電は出力変動が大きいため、再生可能エネルギーには電力調整のための大幅な発電余力が必要です。また、当面は、多くの部分負荷運転中の火力発電所を持つ必要があります。さらには、将来の電力需要と調整力を考えると、大規模な蓄電システムを持つのか、それともヨーロッパのように他国と電力融通を積極的に行って、アジア、ヨーロッパ、北アメリカからも電気の供給が受けられるようにするのか、検討した上でインフラづくりに着手しなくてはなりません。世界に広がるパワーネットワークが必要になると考えますが、後程詳述します。そして、国内に限っても電力システム改革が必要です。現在行なわれている改革は再生可能エネルギー導入の観点からは非常に不十分なものです。これについても後程述べさせていただきます。

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