エネルギー基本計画について

日本の地球温暖化対策に密接不可分な、日本のエネルギー政策について理解するため、エネルギー基本計画について、目次を参照しながら見ていきます。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf
エネルギー基本計画は、20年程度のエネルギーの需給構造を視野に入れて、エネルギー政策の方針を取りまとめるもので、エネルギー政策基本法において、少なくとも三年に一度内容の検討を行い、必要に応じて変更を行うことを求められています。2010年の第3次計画においては、2030年の電源構成における原子力と再生可能エネルギー合計の割合を70にするとしていましたが、平成26年度のエネルギー基本計画は、福島第一原発の事故を踏まえ、このエネルギー戦略を根本から見直し、原発依存度を可能な限り低減するとしています。

COP21を受けたエネルギー基本計画の変更においては、もちろん再生可能エネルギーを基幹エネルギーとするエネルギー供給システムの構築を第一に打ち出さなくてはならないでしょう。26年度の基本計画の目次を見ながら、基本計画の何が問題かを考えましょう。

まず第一章、我が国のエネルギー需給構造が抱える課題です。再生可能エネルギーへの移行を前提とすると、海外資源への依存、資源価格の不安定化など、基本計画がこれまで問題としてきた課題が課題でなくなっていることに気が付きます。

次に第二章、エネルギー需給に関する施策についての基本的な方針についてですが、安全性・安定供給・経済効率性・環境適合という「基本的視点」はいいとして、第二節の各エネルギー源の位置づけが問題です。これまでの計画にはこのように書かれていました。

各エネルギー源は、電源として以下のように位置付けられる。

 1. 発電(運転)コストが、低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源となる「ベースロード電源」として、地熱、一般水力(流れ込み式)、原子力、石炭。

 2. 発電(運転)コストがベースロード電源の次に安価で、電力需要の動向に応じて、出力を機動的に調整できる電源となる「ミドル電源」として、天然ガスなど。

 3. 発電(運転)コストは高いが、電力需要の動向に応じて、出力を機動的に調整できる電源となる「ピーク電源」として、石油、揚水式水力など。

この分類は、地熱、一般水力以外の再生可能エネルギーをこの三つのどれにもあてはまらないものとして軽んじていることは確かです。原子力、石炭、天然ガス、石油のいずれにも頼れなくなった今、これまでのエネルギー政策を支配してきた“エネルギー源の位置づけ”そのものが意味をなさなくなっているといえるでしょう。再生可能エネルギーしかない時代、IT化の進んだ時代においては、系統連系を整備し、広域的な運用によって、さまざまな地域の再生可能エネルギーを調整し、揚水式水力や蓄電機能なども活用して安定して需要家に届ける(つまり、安定性と・機動性を自らつくりだす)「送配電機能」が電力産業の基幹部分となったことを認識すべきだと思います。

各エネルギー源の政策の方向性について簡単に触れておくと、まず原子力については私には原子力産業をどのように収束させるのかを論じる力はありませんが、安全性の問題、高放射性廃棄物の問題、温排水の問題から、原発については、今後新増設される可能性はなく、むしろ廃炉を誤りなく行うための努力が必要になっていると考えます。また、火力発電については、当面は温室効果ガスの排出量が少ない天然ガスにたよりつつ、徐々に「最後の砦」として非常用電源に特化した使用がなされるよう誘導しなくてはなりません。石炭火力発電所の運転を可能にする技術がCCS(carbon capture and storage)技術ですが、これについては日経サイエンス2016年4月号で特集があり、

「CCSは巨大で高価な発電所につながり、NPOグローバルCCSインスティテュートよると、2010年以降、全世界で33のCCSプロジェクトが破棄され、破棄に至るまでに何億ドルも費やしている。アメリカではCCSの併設された石炭火力発電所がCCSを使わずに二酸化炭素を排出しながら操業している」

と告発しています。この状況では、CCS付き石炭火力発電所に頼ったエネルギー政策を作ることは不可能です。木質バイオマスについては日本の地域づくりとの関係で後述します。

二次エネルギー構造(ほとんど電気)の在り方について、第二章に次のような記述があります。

「我が国の電力供給体制は、独仏のような欧州の国々のように系統が連系し、国内での供給不安時に他国から電力を融通することはできず、米国のように広大な領域の下で、複数の州間に送配電網が整備されている状況にもない。したがって、電源と系統が全国大でバランスのとれた形で整備・確保され、広域的・効率的に利活用できる体制を確保していくことが不可欠である。」

この文章の前段は良いとして、後半が問題です。電源と系統がバランスがとれている、というのはどのような意味でしょうか?電源が日本各地に比較的均等に散らばっていて、系統連結が十分になされていない現在の状況をバランスがいいと評価しているだけではないでしょうか。バランスという言葉に意味はないのです。そして広域的・効率的に利活用するためには、アメリカやヨーロッパのように、場合によっては他の国とも系統連携、電力融通するしかないのではないのでしょうか?この点に関しては後の電力システム改革の項で検討します。

第三章にはエネルギーに関する具体的な施策について説明されています。
まず第一節については安定的な資源確保について書かれていますが、化石資源に関する考察がほとんどですから、今後はあまり意味をもたなくなります。メタンハイドレートについてもそうです。

第二節は省エネ関連の記述です。エネルギー使用の合理化に関する法律による省エネルギー対策の報告制度や、エネルギー消費機器を対象とするトップランナー制度が建築物・住宅にまで広げられたこと、次世代自動車の販売割合を2030年までに5割から7割とすること、電力使用の時間帯に対応して有意な電力料金の価格差を設けるなど、デマンドリスポンス制度の効果実証などが書かれており、これらは再生可能エネルギー体制でも引き続き行うべきことです。

第三節については、再生可能エネルギーの積極的な推進が書かれ、系統強化、規制の合理化、低コスト化等の研究、固定価格買い取り制度の適切な運用、大型蓄電池の開発実証、送配電網の整備などが書かれています。しかし、先に述べた電力需要の増加については認識されておらず、大幅な系統連系の拡大の認識もありません。

第四節、第五節は、原子力、化石資源に関する節です。復権・促進のための記述がほとんどです。今後は、逆に原発の収束、化石資源使用量の減少にどう対応するかを書かなくてはなりません。再生可能エネルギーの調整力・非常用電源機能としての火力発電所について論じるべきでしょう。

第六節、供給構造改革の推進についてです。ほとんどが電力システム改革についての記述です。電力システム改革については、後程詳しく触れますが、基本計画に基づき最低限の説明をします。

福島第一原子力発電所事故後、地域を越えた広域的な系統運用、競争の促進による電気料金の最大限の抑制、分散型電源などの多様な電源の活用、需要家の多様なニーズに応じた多様で効率的なサービスの提供など、柔軟性のある電力供給が強く求められたにも関わらず、地域ごとに独占事業者が集中管理する電力供給体制では十分に対応できないという従来の電力システムの抱える様々な限界が明らかになったため、2013年4月に「電力システムに関する改革方針」において、広域系統運用の拡大小売・発電の全面自由化及び法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保を柱とする大胆な改革に取り組むことが閣議決定されました。

制度設計にあたっては再生可能エネルギーの導入拡大等に対応するため、政府が示す政策方針や、広域的運営推進機関が策定する計画に基づき、東西の周波数変換設備地域間連携線等の送電インフラの増強を進めると書かれています。

第七節には国内エネルギー供給網の強靭化ということで、石油備蓄と災害対応、ガソリンスタンドの維持などが書かれています。今後はもちろん送電線等の増強・IT化とEV充電ステーションなど、新たなサービスの供給方法について書かれなくてはならないでしょう。

第八節は水素供給システムなどの、新たな二次エネルギー構造についての記述です。
安定供給と、地球温暖化対策のためと書かれていますが、私には不要なものが多いと感じられます。具体的に見ると

  1. コージェネレーションの推進については、以下にエネルギー効率を上げようとも、 化石資源を燃やすところで、2050年以降はもう使えないインフラになってしまうのです。
  2. 蓄電池については、今、電池の性能が大幅に進化していますので、もうすぐ再生可能エネルギー新時代を支え得る技術になると思います。
  3. 次世代自動車についてですが、燃料電池車については、私にはとても良いものだとは思えません。私が調べた範囲では、燃料用の水素を作るにはどうしても化石資源の使用と二酸化炭素の排出が避けられず、一方、水などの電気分解で水素を作り燃料とするなら、そもそも電気をそのまま蓄電池に溜める方が取扱い易いからです。クリーンディーゼルやCNG車も今からインフラ整備をするには遅すぎ、ハイブリッド車なども早期にEVに置き換える必要がでてきます。
  4. 水素の本格的な利活用とインフラ整備についても書かれていますが、先ほど述べたように、化石燃料あるいは大量の電気を使用せずに水素をつくる方法はありません。

水素インフラは、将来の再生エネルギー社会においては無用の長物となるでしょう。

第九節では、総合エネルギー企業の創出とスマートコミュニティー、エネルギー分野における新市場の創出と、国際展開の強化について書かれています。化石燃料中心の記述です。再生可能エネルギー革命を前提にして、一から書き直さなくてはなりません。
第十節のエネルギー国際協力についても、化石エネルギーを中心に書かれているので、再生可能エネルギー社会を前提に書き直す必要があります。

第四章は、戦略的な技術開発の推進について記述しています。さまざまな技術開発プロジェクトを全体として整合的に進めていくための戦略(エネルギー技術開発ロードマップhttp://www.enecho.meti.go.jp/category/others/for_energy_technology/
pdf/141203_roadmap.pdf
) 
を総合科学技術会議が2013年に決定した「環境エネルギー技術革新計画」http://www8.cao.go.jp/cstp/output/080519iken-2.pdfを踏まえて作成するとしています。そして、取り組むべき技術課題について列挙しています。
列挙されている技術をみると、地球温暖化対策を担う技術としては不十分なものが多くあります。再生可能エネルギーに含まれる、地熱・バイオマス・波力・潮力は、それぞれ採算ベースに乗る可能性のある技術ですが、発電可能量があまり大きくありませんメタンハイドレート高効率火力発電プラスCCSに未来がないことはお話しした通りです。水素エネルギーの実装化には水素をいかに調達するかという根本問題があり、宇宙太陽光発電システムについてはデブリの発生を含めて問題がありすぎます。

大事な指摘だと考えられる部分は「電気の分配の要となる送配電網を高度化するため、変動電源が今後増加することに対応して、高度なシミュレーションに基づく系統運用技術や超電導技術などの技術基盤の開発を加速するとともに、蓄電池水素などのエネルギーの貯蔵能力強化などを進める」という所くらいです。

なぜ、基本計画が、このような問題も多く抱えた技術の羅列に終わるのかは、日本人のこのような計画の作り方、政策の決定手法に問題があるからでしょう。すべての参加者が何かの分野の専門家で、その専門分野の技術が採用されるように強く主張し、そして日本人のたしなみとして、他人の専門分野について口を挟むべきでないというものがありますから、計画を貫く理念というものがなくなってしまうのです。

「エネルギー技術開発ロードマップ」については36の技術が示されていますが、目新しいのは、超電導送電高性能電力貯蔵、そして産業部門において、製鉄と石油精製、セメント製造の3つの分野における革新的、環境調和型プロセスが入ったところだけで、他の技術については特にエネルギーの現状を大きく変えるものではありません。「環境エネルギー技術革新計画」についても同様です。

第五章国民各層とのコミュニケーションとエネルギーに関する理解の深化はとても重要なことですが、国民に何を伝えるかを政府全体として明確に持たなくてはなりません。

私が「エネルギー基本計画」について、最初から最後まで確認作業を行ったことには理由があります。それは、現在までの日本のエネルギー計画には、COP21後の世界に対応できるエネルギーシステムが描かれていないことを皆さんに確認していただきたかったからです。とすればいま真正面から受け止めなくてはならないのは、現在、二酸化炭素を排出できず、原発の危険性を無視することのできない社会に唯一存在できるエネルギーシステムが、太陽光発電と風力発電を中心とした再生可能エネルギー発電システムであり、(超広域の系統連系と調整システム、蓄電設備、非常用電源の整備などを行うことによって、)この発電システムを「安全性・安定供給・経済効率性・環境適合」という要請を満たした電力供給システムに育てるしかないということです。そして、この可能性を「現実」に変える第一歩が「電力システム改革」だったのです

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