日本の電力システム改革について

 電力システム改革は、それまで垂直統合体制が基本形態であった電力事業について、競争が可能な発電や小売りと、規制が必要な送電・変電・配電と系統運用(ネットワーク機能)との分離を行い、発電と小売りを自由化しようというものです。民営化政策を進めていた英国が1980年代から取り組みを行い、2000年代に入ってからはEUも両機能の分離と小売りの全面自由化を行っています。その効果ですが、結果的には小売分野は最初の段階で参入した多くの会社が撤退し、各国とも数社の寡占状態に戻り、電力料金が安くなったということもありません。しかしながらEUでは消費者がいろいろな国で、さまざまな方法で発電された電力から使用する電力を選ぶことが可能になり、再生可能エネルギーの市場参入が進んだという効果がありました。

 日本の電力システムは、これまで部分自由化後も10社の一般電力事業者が、既存電力会社以外の事業参入者、いわゆる新電力(PPS)の成長を抑え込んできたと言われていますが、今回行われた電力システム改革も、再生可能エネルギーの導入を抑え込む形で進められているようです。

 資源エネルギー庁の作成した「電力システム改革について」を見てみます。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/electricity
_liberalization/pdf/system_reform.pdf

(全体像)
 電力システム改革は、①広域的な送電線運用の拡大(2015年4月・広域的運営推進機関の設立)②小売りの全面自由化(2016年4月)③法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保(2020年4月まで)
(電力システム改革の目的)

  1. 安定供給を確保する

 震災以降、多様な電源の活用が不可避な中で、送配電部門の中立化を図りつつ、需要側の工夫を取り込むことで、需給調整能力を高めるとともに、広域的な電力融通を促進。

  1. 電力料金を最大限抑制する

 競争の促進や、全国大で安い電源から順に使う(メリットオーダー)の徹底、需要家の工夫による需要抑制等を通じた発電投資の適正化により、電気料金を最大限抑制。
  本当に安い電源が何かという問題と、様々な政策的配慮を越えて、安いものから使うという考え方には根本的な問題があります。

  1. 需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する

 需要家の電力選択のニーズに多様な選択肢で応える。また、他業種・他地域からの参入、新技術を用いた発電や需要抑制策等の活用を通じてイノベーションを誘発。
広域的な送電線運用の拡大)
第一弾の改正電気事業法に基づき、2015年4月に「広域的運営推進機関」(認可法人)を創設。同機関には、すべての電気事業者が加入。
・広域的運営推進機関を司令塔として、地域を越えた電気のやりとりを容易にし、災害などによって電力が不足した時に、地域を越えた電力の融通などを指示することで、停電が起こりにくくする。
・また、全国大で需要・供給の調整をする機能の強化などにより、再生可能エネルギーなど、出力変動の大きい電源の導入拡大等に対応。

広域的運営推進機関の業務内容

  1. 災害等による需給逼迫時において、電源の炊き増しや電力融通を指示することで、需給調整を行う。
  2. 全国大の電力供給の計画を取りまとめ。送電網の増強やエリアを越えた全国大での系統運用等を進める。
  3. 平常時において広域的な運用の調整を行う。(周波数調整は各エリアの送配電事業者が実施)
  4. 新規電源の接続の受付や系統情報の公開に係る業務や、発電と送配電の協調に係るルール整備を行う。

(小売りの全面自由化)
(送配電部門の中立化)
(改革後の電力の安定供給の確保)

  1. 送配電事業者(一般電気事業者の送配電部門)による措置
  2. 需給バランス維持の義務付け(周波数維持義務)
  3. 送配電門の建設・保守
  4. 最終保障サービス(需要家が必ず誰かから電気の供給を受けられるようにする)
  5. 離島のユニバーサルサービス(需要家全体による負担)
  6. 小売業者に必要な供給力を確保することを義務付け
  7. 広域的運営推進機関による措置  供給力が不足すると見込まれる場合に、広域的運営推進機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設
  8. 法的分離後も、グループの一体的な資金調達や、グループ会社間での資金融通を認める
  9. 事業者間の連携、現場力の維持・強化  発電・小売りと送配電の間の業務連系・人事異動を可能とする。

 今回定められたシステムは、大枠は、広域系統運用の拡大にも、再生可能エネルギー導入にも中立なシステムに見えますが、残念ながら現実の運用は、再生可能エネルギーに大変厳しいものになりそうなのです。どのように厳しいかをお話ししたいのですが、その前にこれまでの電力業界の行動パターンの基礎になっている、電力会社の大切な、業務(1)周波数制御と(2)需給バランス調整 について理解しておく必要があります。

一般電気事業者が実施している系統運用業務(1)周波数制御
・ある系統内に予定以上に電流が流れ込むと、系統内の周波数が上がり、電流が足らなくなると周波数が下がります。周波数が一定の範囲を超えてしまうと、電力を使用している機器に悪影響を与えますので、停電が起こるようになっています。周波数制御は、系統の周波数を維持する調整であって、電力量の補給を伴わない調整をいいます。
・ガバナフリー(GF:Governor Free)などの瞬動予備力により数秒から数分程度の短周期の周波数を調整。
・部分負荷運転中の火力発電機の余力や、水力発電などの運転予備力により、数分から20分程度の長周期の周波数を調整(LFC: Load Frequency Control)

一般電気事業者が実施している系統運用業務(2)需給バランス調整
・一般電気事業者は、系統利用者が発生させたインバランスに対し、電力量の補填や引き取りによって、需給バランス調整を行わなくてはならない。
・この調整のため、系統運用者は、部分負荷運転中の火力発電機の余力や、水力発電などの運転予備力、および、停止待機中の火力発電機などの待機予備力(数時間程度で起動)を活用することが基本。
・一般電気事業者は、調整力の「上げしろ」の代わりに、需給調整契約も活用。

 

再生可能エネルギー普及の障害について

 現在の大手電力会社は、電気の安定供給を行うことが自らの責任であり、誇りでもあります から、これまで作り上げてきた電力供給インフラや電力構成(エネルギーミックス)を維持 したいという強い思いがあります。新電力や再生可能エネルギーは、いわば厄介な存在です。
ですから、再生可能エネルギー導入には、一般消費者に分からない形で邪魔をしようとする わけです。

(再生可能エネルギーの接続拒否)
 資源エネルギー庁は「再エネ特措法施行規則」改正し、一般電気事業者の再エネ買取義務に 「接続可能量」という上限を設定しました。これは、電源のうち原子力・水力・地熱の「ベ ース電源」と需給バランス調整のために待機させておく火力電源を優先的に系統に接続さ せ、需要からそれらを差し引いた「接続可能量」を買取の上限とするもので、他の電力会社 との電力融通は考慮しないで決められています。(資料7参照このために、北海道では設 備認定量が2.87GWあるのに、接続可能量は1.17GWしかなくなり、九州でも設備認定量 が17.76Gあるのに接続可能量は8.17GWしか認められないのです。EUでは、原子力・石 炭火力よりも再エネを優先給電することが定められていますし、再エネを出力抑制しなく てはならない時も補償があります。日本は無補償です。このようにこれだけ再生可能エネル ギーが普及しようとしている時に、大手電力会社側の都合によって、再エネの運転や投資が シャットアウトされているのが現状です。

(再生可能エネルギーと表示できない)
 新電力が「再生可能エネルギー」を発電所から買って販売しようとする場合に、「再生可能 エネルギー」と表示してはならないことになりました。これは再生可能エネルギーを再生可 能エネルギーたらしめている「環境価値」は全消費者が対価を払っている以上、補助を受け た電力をさらに「再生可能エネルギー」として販売するのは価値の二重取りだという殆ど 言いがかりに等しい理由によるもので、(なぜなら、環境価値は二酸化炭素を排出していないところにあり、それは国民が補助を受けようがどうしようが変わらない)「FIT電源」としか表示できなくなったのです。

(家庭用託送料金が高い)
 託送料金とは、電力会社が所有する送配電設備を発電事業者や電気小売事業者が利用する 場合の料金です。送電網の広域利用により、北海道電力の電気を東京でも利用できるように なったのですが、それには東京電力の場合、1kWhあたり8.61円という託送料金が上乗せ されるので、他地域の電気は割高になってしまいます。EU内では国内外でこの託送料金は 一定です。

(広域系統連系の不備)
 電力システム改革により、広域的運営推進機関が、系統連系、運用の拡大をすることになり ましたが、現在予定されている周波数変換装置の増強や地域間連携線の増強は非常に小規 で、将来的にすぐに足りなくなることが目に見えています。全国規模、あるいはそれを越 えた電力の融通を行わなくてはなりませんし、私は電力需要はこれから大幅に伸びると考 えていますから、最低一桁大きい能力が必要になってくると思われます。(資料8参照)
電力中央総研などが、再生可能エネルギー増強後の需給調整機能の検討を行ってHPに載 せていますが、再生可能エネルギーの割合が、2割、3割までの検討しか行っておらず、私 としては思考を柔軟にして、もっと大規模な導入と超広域の系統連結の下での研究をして いただきたいと思っています。

 しかしながら、この状況を一変させることのできる組織が生まれたことは朗報です。広域的 運営推進機関の権限が、従来の電力会社よりも大きくなったのですから、再生可能エネルギ ー導入に熱意のある政権の元、政府とこの推進機関が一体となってこの状況を打破してい っていただきたいと思います。そして、なによりも市民の皆さんの力で、既得権益に抱き込 まれていない新しい政治勢力を作っていただきたいと思います。

 

地球温暖化対策講演会資料に戻る