現在の地球温暖化対策計画(骨子案)について

 このように、日本のエネルギー政策に関する問題点を整理した上で、経済産業省・環境省の 合同諮問会議が提出した地球温暖化対策計画(骨子案)(資料9)を見ていくことにします。
(今日3/1に政府の「地球温暖化対策計画」の原案が明らかになったという新聞報道がありました。パリ協定発効後に日本が国際社会に示す削減目標として、短期は20年に05年比で3.8%減少、中期は30年に13年比で26%減少、長期は50年に現在よりも80%減と数値を明記したとのことですが、具体的な政策はこれから述べる骨子案とあまり変わっていないようです。原案はまだHPにアップされていません)

  1. 温暖化対策の目指す方向の中で、温暖化対策に率先して取り組むとしながら、1.5目標にも触れず、21世紀後半のなるべく早い時期での排出と吸収のバランス、という合意からなるべく早い時期、という言葉を取ってしまっているところが後ろ向きであり、研究開発の強化という言葉も入り、今すぐの対策を避けているにおいがします。
  1. 地球温暖化対策の基本的考え方の中で、1)我が国の環境、経済、社会の統合的向上に資するような施策の推進、2)約束草案で示した中期目標は、エネルギーミックスと整合的で、裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによって策定などと強調、3)パリ協定には対応する 4)有望な分野を特定して研究開発、二国間クレジット制度の利用 5)すべての主体の参加 などと、COP21の合意を経て、何かを変更するという姿が見受けられません。特にエネルギー分野について触らせないぞという決意が見えます

 

  1. 部門別二酸化炭素排出の数字に、エネルギー転換分野の排出量を、各産業に使用熱量で割り振った数字(電気・熱配分後の数字)を使い、エネルギー転換分野を見えにくくしています。

 温暖化対策・施策については添付資料のように産業部門の取り組みについて細かく書き込み、エネルギー転換部門の取り組みについては、できるだけ目立たないようにしているように見えます。産業部門については、すぐに取り組めないもの、費用対効果のよくないものが混ざりこんでいます。そして産業機器全体の電化という視点が示されていません。運輸部門についても、何か新しいことをするということが書かれていません。

 技術については将来的に化ける可能性があるから、当面効果を予測しがたいものでも研究や、投資を続けるべき場合もありますが、実現可能性が低いものについてはこの温暖化対策計画から外すべきです。

 全体的に、二酸化炭素排出量減少への効果が量的に大きいものに資源を優先的に投入するという視点が示されていません。

 エネルギー部門については、火力発電の高効率化と原子力発電の活用、再生可能エネルギーについては国民負担の抑制と、これまで通りの記述しかありません。

 J-クレジット制度、JCM、国内排出量取引制度については、事務手続きに手間がかかりすぎ、削減効果が少ないと思われます。

 このように、地球温暖化対策計画改定案の骨子を見てきたわけですが、「エネルギー基本計画」にしろ、この「地球温暖化対策計画改定案」にしろ、これまでのエネルギーミックスをそのままにしながら、社会が積み重ねてきた効率化や省エネ、再生可能エネルギー導入もふくめてですが、それをもう一度すべての分野で深掘りして、二酸化炭素排出をなんとか2030年に2013年度比26%減少させようという方向性でつくられたものでした。しかしながら、さらにそこから排出量を減少させようとすると、これから2030年までにつくる、火力発電所も含めて、いろいろな分野で無理がでてきます。それよりも、私が「日本のエネルギーについて」のところでラフスケッチをした、2050年までに日本のエネルギー供給をすべて再生可能エネルギーにし、社会をそれに適応させていく、という方向性を2016年、今年から始めていくほうが、かえって、より早く、楽に社会を2050年のゴール「(温室効果ガス)排出ネットゼロ社会」に変える道であると皆様にも感じていただけたと思いますし、COP21を通じて世界が選択したのは、この方向性だったと思います。

 そして、それを実現するための、「基本計画」は、まだどこにもできていないのです。これから我々が作り上げていかなくてはならないものなのです。とはいえ、世界に目を広げると、2050年排出ネットゼロ社会で使われるシステムの大枠はもう見えてきています。世界のあちらこちらで現実に建設され始めている2050年の世界のエネルギー供給システムと、地球温暖化対策の枠組みについてお話ししようと思います。

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