政策レポート Vol.9

暑い日が続いておりますが皆様お元気ですか。とうとう郵政民営化を巡る衆参両議院の大騒動のもと、衆議院が解散されてしまいました。私は、自民党幹部がこの選挙に関し、郵政民営化法案に関する国民投票のようなものだ、と言っている事に怒りを感じます。いつのまに自民党は郵政民営化法案を通すためのマシーンのような存在に成り果てたのか、より深い日本の伝統や地域に対する思いを国政に反映させるために働く政治家達はどこに行ってしまったのか、深い失望と憤りを感じます。

 私は郵政民営化には賛成ですが、遠隔地での生活に著しく支障をきたすようになる現在の郵政民営化法案には反対です。しかし、今回の事態の最大の問題は審議過程そのものにあります。アメリカにもない党議拘束という非民主的な制度を振りかざし、反対議員の自由意思を完全に否定し、全国民を代表した議員が議論によって意思決定を行うという議会制民主主義の基礎を揺るがした小泉内閣には大きな責任があると思います。

 選挙は国民が国の重要な政策の決定に関わるほぼ唯一の機会です。だからこそ、選挙においては時代のさまざまな問題点について幅広い観点から議論を行い、国民に選択の機会を保証する必要があります。もし我々が郵政民営化法案についてしか意思表示を許されないなら、この国はすでに独裁国家です。民主党だけでなく、自民党も、今後マニフェストを出し合い、政策本位の闘いをするといっていたのにかかわらず、です。

本当に重要な緊急の課題は、年金問題など高齢化に伴い生じる問題、小子化を生み出す若年層の失業問題や、パートタイマーや派遣労働の増加に伴う職業の質の低下の問題、社会への求心力の低下と教育・犯罪の問題、東アジア諸国との関係を中心にした外交問題、そして何よりも地球規模の環境変動に対し、どのようなあらたな社会を作り対応して行くかという環境危機管理の問題です。そしてこれらすべての問題に関して小泉政権の対応は非常に不十分であり、問題を悪化させ、サラリーマンに対する増税などで国民に失政の転化をしようとしているように思えます。

私は後に述べますが、これらの問題のうち、少子高齢化に伴う問題や外交問題、失業問題は、政策転換により比較的短期に解決する方法はあると思います。しかしながら地球の環境変動に対しては、社会の全構成員の協力を要し、粘り強い長期的な対策を、それも早急に行う必要があります。今日は皆さんに、地球環境の現状、地球環境問題を巡る政治状況について簡単にご説明し、その後他の問題の説明に移りたいと思います。

猛威をふるい始めた地球温暖化

 現在日本でも猛暑が続いていますが、ヨーロッパ南部では何百年ぶりの熱波と少雨がつづいており、ポルトガルやスペイン、フランス南部では家畜用作物が不足し、EUの他の国々からの支援を仰いでいます。この高温と乾燥はインドや他の地域でも同時に発生しており、世界的な温暖化の傾向を如実に表しています。さらにフロリダ半島から住民をすべて避難させるほどのハリケーンの巨大化、中央アジアの乾燥地帯を潤す高山からの雪解け水の減少、アラル海の大幅な縮小、中国南部の大洪水、大洋に浮かぶ島々の水没など、世界各地で地球温暖化は猛威をふるい始めています。

この温暖化は今後どうなるのでしょうか。残念ながら、人類が抜本的な社会変革を行わない限り、地球温暖化は加速度を増し、現代文明を崩壊に追い込むことはほぼ明らかになってきました。ヨーロッパの政治家や科学者達は、あと十年以内に人類は引き返し可能地点を超え、その場合この文明はあと100年もしないうちに崩壊すると考えています。この地球温暖化問題に関し最も権威ある、国連機関が運営する千人近い科学者のグループIPCCが示した、これまでの地球平均気温の推移と今後の予想は下図のようになっています。グラフの見方が難しいのですが、簡単に言うと、まず、我々が現在経験している地球の温暖化はほんの序の口で、21世紀中に温度は急上昇します。そして今後世界がどのように対応するかでケースを分けてあるのですが、人類がこのまま経済を拡大すれば、2100年には温度が5度近く上昇、人類が温暖化ガスの排出削減に最大の努力をすれば上昇が2.5度程度に抑えられることが示されています。




どのようにすれば、温暖化ガスの排出を減らせるのでしょうか。それははっきりしています。個々人や企業のCO2排出節減努力は、もちろん必要ですが、なによりも社会全体が化石エネルギーから自然エネルギーへのエネルギー転換を行わなくてはならないのです。エネルギー転換を徹底的に行うことによって (例えば風力発電のエネルギーにより水素を得、水素で燃料電池カーを走らせるなど) 現在の生活の利便をあまりそこなわずに二酸化炭素排出量を大幅に減らすことは実は可能なのです。
風力発電を将来の基本的なエネルギー源にすることはヨーロッパでは当然のことと思われており、イギリスやドイツなどでは自然エネルギーの利用によって、二酸化炭素の排出量を80%削減することを目指しています。アメリカのエネルギー省の調査にも、アメリカには自国で消費するエネルギーをすべて満たす風力エネルギー資源が存在するとあります。日本は、表面的にはすべての企業や自治体が地球温暖化対策を行っていることになっていますが、実際の二酸化炭素排出量縮減に結びついていません。すなわち最も大切なエネルギー転換や、廃棄物を減らす物質循環の回復を、日本はヨーロッパほど本気で行っていないのです。

化石燃料使用をコントロールする世界機構の成立を

 ヨーロッパ諸国が京都議定書のもと、自ら厳しい二酸化炭素排出量削減をしても、アメリカや日本、中国などの諸国が削減に取り組まなければ、世界の気象に与える影響は大きくありません。私は現在の京都議定書の基礎となっている、世界の国々がそれぞれ削減量を約束しあうという、各国の強制力にのみ頼った方法では、化石燃料に関する既得権益者を納得させることは到底出来ず、今後とも対策が遅れて行くと思います。私はだからこそ、化石燃料産業を一括して買い取り、徐々に縮小させて行くための世界機構を、アメリカ、日本、ヨーロッパ、中国などが中心となり、形成すべきだと考えています。その内容や、私がこれを考えるに至った経緯などについては、私の初めての小説「地球温暖化と闘う愛」を是非お読みいただきたいと思います。この本の発刊に当たっては、地球温暖化問題の世界的な権威である上野勲先生の監修を得ることができました。またその機構の詳細については、私も今後、多くの経済学者や官僚の皆さんと話し合いながら研究して行きたいと思っています。

地球温暖化と闘う愛 概要

ごく普通の青年が80年後の地球温暖化による人類滅亡と取り組む科学者とその娘と出会うことにより地球温暖化との闘いに目覚め、地方政治家を志してゆくというストーリーの環境入門恋愛小説。地球温暖化との闘いの鍵は太陽の塔に残されたメッセージにあった。

作  山口克也
監修 上野勲 名古屋大学客員教授・エコシステム研究会代表
発行 新風舎
定価 1600円 (税別) 
各書店、あるいはアマゾンや、山口克也ホームページ
から注文可能(メールでお願いいたします)



 自民党・民主党が地球温暖化問題についてマニフェストでどう述べているか見てみます。自民党は代替エネルギー開発に取り組むと一言書いているだけで、目標数値は一切入っていません。民主党は、森林の再生や環境税の導入について書き込んでいます。しかしながら、本当に危険である、今すぐ社会を変えなくてはならないとう切迫感に欠け、こちらも大変不十分なものです。日本にはヨーロッパで10年以上も前に生まれた環境政党は存在せず、小選挙区制、2大政党制への流れが環境政党の誕生をますます難しくしています。しかしながら、これほどの危機が迫っているのですから、社会の生態学的な持続可能性の観点から社会改革を目指す政党が本来存在すべきなのです。

他の多くの重要な問題点について 

 私には、各政党間の政策論争が、これまでの縦割り行政の枠に縛られすぎていると思えます。少子化問題を考えて見ましょう。児童手当の増額や不妊治療などへの補助、保育園の整備などをさらに充実させるべきだ、という議論が行われています。しかし、現在の若年層の給与水準や雇用の安定性が、安心して子供を生み育てられる水準よりも下がってしまっていること、あるいは、若者が、コストのかかる都会の中で子育てと教育をしなくてはならないという現実を変えない限り、問題の解決には繋がらないでしょう。あるいは、環境の悪化する可能性が高い世界へ、子供をもっと生みだせ、というもの無責任な言葉のように感じられます。

 年金問題や、福祉問題については、負担の押し付け合い、給付の取り合いをこれ以上いくら行っても社会の安心・安定は得られないと思います。それよりも介護などの福祉業務を細ってくる若い世代の労働力をあてにして考えるから問題が解決しないのです。私は、60歳以上の労働に対して与えられるグリーンマネーの制度を導入し、まだ働ける高齢者を福祉などの担い手として働いていただくべきだと思います。一国二通貨制度を考えるぐらいのドラマティックな解決を図らないと、この問題も決して解決しません。

 公務員の優遇と低所得者層の増加の問題についても、公務員にいくら給与を削減しろと言ってもそう簡単に既得権を手放すことはないでしょう。それよりも民間との給与格差を産み出したのがデフレであるということを直視し、現在の労働の価値が増加するようなインフレ政策を導入し、そのなかで、再び均衡を図るという方法以外はないと思われます。そして低所得者の増加は、景気の回復と企業の経営状態の回復を雇用よりも優先した経済・雇用政策が原因なのですから、企業の業績が回復したなら、歯車を逆回転させるべきで、決して企業の利潤を国がかきあつめるようなことをしてはならないのです。

 日本の政治制度について述べたいと思います。ここまで進められてきた二大政党制への道は、結局国会に多様な国民意見を取り込むという上では不適切だったのかもしれません。二大政党制に近い国会において、各政党が党議拘束をかけて法案の議決を行うとなると、すべての与党案が可決されることになり、国会は完全に形だけのものになってしまいます。民主党が国会において実に何もできないのも、自民党がすべての法案について党議拘束をかけるという体質の党だからです。

今回の選挙を機に、党議拘束をかける際の手続きを法律化するなど、国会の民主化のための議論が起こればよいと思います。

人間の絆を結び、人に優しい社会を取り戻す

 私は2年前、万博美術館、EXPOホールの保存、吹田市の焼却場建設計画の見直し、公害道路反対などを掲げて吹田市長選に臨みました。42%の得票率は得たものの、選挙に破れ、自らの力なさのせいで、貴重な歴史的建物が取り壊され、地球温暖化対策に逆行する公共事業が進行していくのを見ることは本当に辛い事でした。私は市民の立場でも出来ることをしようと、市民運動をかさね、要望書を提出し、吹田市議会、大阪府議会から万博施設についての保存活用を求める意見書をいただくところまで漕ぎ着けました。しかしながら、取り壊しを防ぐことはできませんでした。
 
その後私は、いろいろな方のお勧めもあって万博施設に関する運動を、太陽の塔を世界遺産にしようという活動へとシフトさせていただきました。昨年、今年四月に亡くなられた岡本敏子様、そして小松左京先生などを囲んで行われた「太陽の塔世界遺産への道を考えるフォーラム」はその活動の一つの達成点です。是非ホームページをご覧ください。「太陽の塔」は知床の世界遺産化を特集したある雑誌で日本の世界遺産候補30の中に名を連ね、そこでは、我々のグループについても紹介されています。
 
万博施設をどうしても守れない、焼却炉の建設をどうしてもストップできないと悟ったとき、ぼくは自分の思いをさきほども紹介した「地球温暖化と闘う愛」という小説に結晶させ、自分としての一つの区切りをつけました。そして地球温暖化対策についてさらに深く学び研究するために、東北大学環境科学研究科博士課程に籍を置くことにしました。

 私には何が出来るのでしょうか、私はこれから何をすればよいのでしょう。私は前回の選挙で私にいただいた4万7千5百を超える得票を忘れることは出来ません。この得票が私の多くのサポーターの力によるものだとしても、私が信じたこと、私の情熱は人に伝わるという確信を得ることができました。そしてもう一つ、地球温暖化問題の本質は先ほど簡単に述べたように政治問題であり、地球温暖化から人類を救う技術はすでに存在するといくことを専門家レベルの知識として私は東北大学で学びました。これを知った私は再び研究室を飛び出そうと思いました。

 私はこれからこの命尽きるまで地球温暖化問題や、すべての社会的苦悩と取り組みたいと思います。皆さん、日本のさまざまな大きな問題に解決の道がつく日まで、ともに頑張ってまいりましょう。レポートをお読みいただき本当に有難うございました。

山口克也略歴

1963年大阪府吹田市生まれ。私立灘高等学校卒、東京大学法学部卒業。米国ルイジアナ州立大学大学院修了、経営学修士。住友化学工業などを経て、1999年吹田市議会議員当選。地域の商工振興や地域環境維持のための活動を積み重ねる一方で、吹田市を国際性、文化性、環境性豊かな街に育てるため、「太陽の塔のまち宣言」を提案。その他、吹田市とガンバ大阪の交流、吹田市と市内各大学との交流などを提言し、吹田市に新風を吹き込んだ。2003年、万博美術館・EXPOホールの保存・活用、焼却炉建設計画の見直し、公害道路の建設反対を掲げて市長選に挑むも惜敗。現在、山口総合政策研究所所長、東北大学大学院環境科学研究科博士後期課程在籍。太陽の塔世界遺産を考える会会員

 

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